去年、5年間の単身赴任を終え、わが家に帰ってきた私を迎えてくれたのは、妻、そして3歳になる雄きらら(写真)だった。

 スーパーに行く途中の空き地に捨てられていたそうで、手のひらにのるほど小さく、か細い声で鳴きながら震えていたそうだ。

 妻に言わせると「天使が舞い降りてきた」とかで、その時の出会いの様子を満面の笑みの妻から繰り返し聞かされた。

 特に猫は好きではなかったが、妻の機嫌がよいに越したことはなく、私も「賢そうな顔をしている」と頭をなでてみた。

 彼はすごく迷惑そうな顔でさっと妻の後ろに隠れた。妻は能天気に「人見知りしているだけ。純情な子だから」と笑っていたが、私はなんとなく嫌な予感。そしてそれはみごとに的中した。

 昼間は妻にべったり。いつも妻のあとを追いかけ、妻の膝で寝そべり、私のことは一切無視。私が声をかけても見向きもしない。それはそれでいいのだが、妻が寝入った深夜、ご飯をあげる役は私なのだ。

 これがなんときららのご指名。いつもは妻に甘えまくっているのに、深夜だけは寝ている妻を起こそうとはしない。私と妻は隣同士の部屋で寝ているのだが、私の部屋を訪問し、ご飯を催促するのだ。

 なぜ深夜だけは私なのか。

「本当はあなたにも甘えたいのよ」。妻は呑気に言うが、私はこれはきららの作戦ではないかと邪推している。睡眠は寿命にも大きく影響するという。きららは大好きな妻を長生きさせるために、深夜はそっとしておこうと思い、どうでもいい私を起こすのではないか。

 猫がそこまで賢いとは思えないが、きららは特別。妻は天使と表現したが、彼は宇宙人ではないか。睡眠不足気味の頭に、そんなばかな考えがよぎるこの頃である。

(岩田浩美さん 鹿児島/56歳/会社員)

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