若いころ、柴犬の小太郎(写真、雄)はやんちゃ坊主だった。動物病院では、ちょっとした注射でも力の限り抵抗して、吠えたてた。獣医さんが「外にいる人が、中でよほどひどいことをしているんじゃないかと思うし、他の犬たちが不安になるでしょ」と、困っていた。
 そう、実は小太郎は怖がり屋さんでもあったのだ。
 そんな小太郎も14歳になり、ずいぶんおとなしくなった。
 夏は、朝に夕に田んぼ横の用水に足を浸すのが好きではしゃいでいたが、最近は水に入るのは自分でできても、出るときは抱っこしてもらうことが増えた。また、その用水への往復も手押し車に乗せてもらうようになった。
 ごはんも、食欲が落ちてミルクとチーズしか食べられなくなってしまった。
 8月、いつものように用水に入っていた小太郎に、同じく柴犬の女の子、ひなちゃんが近づいてきて、口と鼻と耳をフンフンと、とてもやさしく、ゆっくり嗅いでくれた。
 ひなちゃん、今日はどうしたの?と不思議だった。
 夜、小太郎は息遣いが荒くなって目を覚ました。なでてなだめると、また眠りについた。
 朝のさわやかな光の中で、小太郎はぐっすり寝ていた。とても可愛い顔と格好だった。写真に撮っておきたいと思ったほどだった。
 いつまでたっても小太郎は動かなかった。異変に気づき、段ボール箱に入れ、タオルケットを掛けた。何かの間違いで、うーんと伸びをしてひょっこり起き上がりそうに見えた。ツンツン体を触り、前脚を動かしてみた。でも、小太郎は可愛い顔のまま眠り続けた。
 お父さんやお母さんが帰宅すると、タレ目で熱烈歓迎してくれたね。尻尾のはえた親友でいてくれてありがとう。

(中西文子さん 愛知県/68歳/主婦)

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