春日太一氏の『仁義なき日本沈没』を読みました。
 東宝と東映、二つの映画会社の勃興期から、邦画の絶頂期からいきなりの凋落、そして二社の新しい体制の象徴である『日本沈没』と『仁義なき戦い』という二つの作品を生んだ1973年までの流れを描いたノンフィクションです。

 東宝とは、脚本家としては『ローレライ』の初期と『隠し砦の三悪人』、双葉社では『劇場版クレヨンしんちゃん』や『告白』など、小説やマンガの映画化の担当として仕事をしてきました。
 東映は、現在テレビ部で『仮面ライダーフォーゼ』のシナリオを書いていますが、双葉社の編集者時代に、『仮面ライダー』『快傑ズバット』『人造人間キカイダー』『アクマイザー3』など、過去の作品の研究本を出していた時期があります。その時は、版権管理部門とずいぶん懇意にさせていただきました。
 二つの会社とも、実製作サイドのシナリオライターと同時にスタッフサイドとしても、仕事をしています。
 実際に仕事をした上で、この二つの会社の空気は随分違うなと感じていました。
 今や邦画界で一人勝ちとなった東宝は、やはり興行的観点から作品を見る傾向が強い。その映画がヒットするかどうか、ヒットさせるにはどうしたらいいかをビジネスとして考えているなあと感じます。
 その点、東映はまだ昔の映画屋気質が残っている感じがする。自分たちが面白いものを作って世に送るんだという感じですね。
 僕の個人的な感覚です。
 東宝で主におつきあいしたのがプロデューサーの方々や製作委員会だったのに対し、東映は『仮面ライダー』の現場がメインですから、その違いというのも大きいとは思います。
 それでも、二社の雰囲気は違うなあと思っていた。

『仁義なき日本沈没』を読んで、その空気感の違いが腑に落ちました。
 東宝はもともと興行会社が母体だった。映画の配給ですね。映画館への配給網があって、そこにかけるために映画を作ることになった。それに対して東映は、まず撮影所があり、映画を作ることが先だった。作った映画をかけるために配給網を作っていく。しかもその当時、都会の大型館は東宝に押さえられていたので,地方の映画館を中心に直営館の契約を結んでいく。
 配給が先か、映画製作が先か。もともとのスタートが違うから、今でも二つの会社の気風が違う。
 これを社風というのでしょうね。
 
 その部分だけではなく、この本は面白かったです。
 両社の中心人物の考え方の違いが生む作品、その作品と時代との関係性。どちらにも低迷期があり、どちらにも黄金期がある。
 そして、『日本沈没』と『仁義なき戦い』が、なぜ二社の象徴的ヒット作と言えるのかという終章まで、一気に読ませました。
『天才 勝新太郎』といい『時代劇は死なず!』といい、春日さんの映画に関する著作はどれも労作であり、何より読んだ後、そこに取り上げられた映画を観たくなるので困ります。
『天才 勝新太郎』読んだすぐ後に『座頭市』のDVDボックス、買っちゃったものなあ。
 今回も、かなり調べられたでしょうに、新書の限られた枠の中に凝縮させています。
 その技にも感心しました。

 東宝と東映といえば、このGW、『クレヨンしんちゃん』と『仮面ライダーフォーゼ』がコラボします。
 4/14から東宝系で公開の『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』と4/21から東映系で公開の『仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦』の二本の映画の宣伝をお互いに協力してやろうというのです。
 いや、僕も最近まで知らなかったので驚きました。
 映画会社の枠を越えての宣伝というのはなかなかありません。
 なにより、『クレヨンしんちゃん』と『仮面ライダーフォーゼ』。この二作品どちらもに深く関わっているのは、テレビ朝日のプロデューサーと僕くらいのものでしょう。
 この間、『オラと宇宙のプリンセス』の完成披露試写があったのですが、その舞台挨拶にしんちゃんとフォーゼが並び立っていた。こんな光景が見られるとは思わなかった。
 誰得と言って、僕が一番、嬉しいかもしれません。
 二作品とも、宜しくお願いします。