『蛮幽鬼』東京公演が終わりました。
 激しい殺陣も多いし、新型インフルエンザも流行している中、病人も怪我人も出ずに、とりあえず東京の幕を下ろせたことに感謝です。

 緊張が解けたのか、千秋楽の翌日、風邪で熱を出してしまいました。
 本番が始まれば仕事がないはずの僕でさえそんな有り様なので、現場に関わっているキャストやスタッフの皆さんの緊張はどれほどのものかと思います。
 10日ほどあけて11/9から大阪公演が始まります。
 身体を休めて万全の体制で臨んでもらえればと願います。

 さて、そんなこんなのうちに新しい仕事が発表されました。
『戯伝写楽』。まあ、タイトルから分かる通り、伝説の浮世絵師、写楽(しゃらく)を題材にした音楽劇です。
 大和悠河(やまとゆうが)さんと橋本さとし君のダブル主役です。

 さとし君と芝居をやるのも随分久しぶりになります。
 彼が新感線にいたころは、橋本じゅんと二人、"橋本兄弟"と呼ばれ、じゅんの弟分的なポジションでした。名字が同じなだけで赤の他人なのですが、同じ大学で先輩後輩だったこともあるのでしょう。
 当時、いのうえひでのりは新感線の公演活動とは別に劇団から派生したメンバーでGTRというユニットを組み、ロックのライブコンサートを行っていました。
 その中心メンバーにさとし君はいました。黒のレザーに銀鋲を打ったゴリゴリのヘビメタの衣装を身にまとい、熱くシャウトするロックシンガー橋本さとし。右手にマイク左手にジャックダニエルの壜。でも中味はウーロン茶。そう、いかにも飲めそうなのですが彼はアルコールが全くダメだったのです。そんなギャップがいかにも彼らしい。
 97年に新感線をやめて『ミス・サイゴン』でエンジニア役をやると聞いた時には、いい役に巡り会えたなと思いました。調子がよく派手好きで一見軽薄であり酷薄でもあり孤独でもあるあの役に、彼の個性ははまるだろうなあと。
 実際好評で、そのあとも順調にミュージカルの舞台でキャリアを重ね、ついに『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンを帝劇の舞台の上で堂々と演じているのを観た時には、「よく頑張ってきたなあ」とちょっと胸が熱くなりました。
 今年の9月、松たか子さんと共演した『ジェーン・エア』もよかった。
 劇団を離れても、いや離れたからこそ、活躍している人を見るのは嬉しいものです。

 その彼に久しぶりに書いたのが今回の『戯伝写楽』。
 彼の役は能役者斎藤十郎兵衛(さいとうじゅうろべえ)、写楽研究者の間で写楽だったのではないかと考えられている人物の中でも有力候補の一人です。
 この芝居の中で、どういう役回りになるか。それは観てのお楽しみということで。
 来年4月、東京と大阪で公演が決まっています。
 残念なのは、新感線公演の『薔薇とサムライ』と公演時期がかぶっていること。
『戯伝写楽』の企画自体はもう二三年前から動いていたので、ここでかぶってしまったのはほんとに偶然なんですが。
 安くないチケット代なので恐縮ですが、作者としてはどちらか一つではなくどちらにも足を運んでいただければと願います。