<ライブレポート>【則竹裕之フュージョンスペシャル~featuring DIMENSION】ジャズ・フュージョン界のトップドラマーが表す“新次元”
<ライブレポート>【則竹裕之フュージョンスペシャル~featuring DIMENSION】ジャズ・フュージョン界のトップドラマーが表す“新次元”
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 「いいなぁこの感じ」
ノーマイクで発せられた増崎孝司(g)の第一声がこの会場にいるすべての人たちの想いを代弁しているかのようだった。

 9月から約2か月にわたり行われたジャズ・フェスティバル【かわさきジャズ2020】の一環として、11月10日、【則竹裕之フュージョン・スペシャル~featuring DIMENSION】公演がラゾーナ川崎プラザソルにて開催された。

 この日の公演は感染症対策の関係で会場には100数名程度しか入れられない状況であった。名だたるプレイヤーたちの共演ということもあり、チケットは即日完売。当日の会場も開演の30分前から既に8割近くの席が埋まっていた。今か今かと待ちわびるファンたちのもどかしい気持ちが筆者にも伝わってくるほどであった。

 開演時間になると程なくして客席側の照明が消え、本日の主役たちのお出まし。ステージが一気にピンク色に染まり、妖艶なメロディが特徴の「Soul Jam」から始まった。曲中の勝田一樹(a sax)と増崎のDIMENSIONの2人によるアドリブ合戦は、長年寄り添ってきた夫婦の会話のようで一気にライブの世界へと引き込まれた。爽やかながらもどこかノスタルジックな「Loop」、安部潤(key)のメロディが存在感を放つ「Dance The Dance」と続き、3曲で既に圧巻のプレイングを見せつけていく。

 DIMENSIONの2人が自己紹介をするとメンバー紹介のMCへ。増崎が「則竹裕之フュージョンスペシャルという名のDIMENSIONです」と前置きしつつ則竹の紹介をする。「(則竹は)実質DIMENSIONの3人目のメンバーであり、ジャズ・フュージョン界のお父さんのように我々を後ろから見守ってくれる存在」と変わった形で称賛を贈り、則竹も満更でもない表情を浮かべていたのが微笑ましかった。田中晋吾(b)は現在サポートとして所属しているT-SQUAREをやめてきたと紹介。キーボードの安部は増崎と勝田が別のフュージョンキーボーディストの名前とわざと間違えて紹介するといった、やりとりも繰り広げられ、、MC中は終始、客席からマスク越しの笑い声が漏れていた。ひとしきり笑いを取った後、勝田からこのライブのコンセプトが語られた。「このライブはここ最近のDIMENSIONを支えてくださっている則竹裕之が一番新しいDIMENSIONを選曲した。そんなライブです」。

 なるほど、あくまで則竹による最新のDIMENSIONなのかと納得しているとステージが真っ赤になり、4曲目の「Take It Up」。直前の緩いMCからは想像できないほどの大迫力のサウンドとプレイ、各楽器の圧力に押されるほどであった。特にサビでのサックスのハイトーンは破壊力さえ感じ、金色の管は間違いなく咆哮していた。その後、「これまで激しくいきすぎたのでちょっと落ち着いた感じで」と増崎の一言で入る「Brand New Emotion」に心が休まる。

 ライブの前半が終わり、会場の換気タイムが15分ほど設けられた。てっきり完全な休憩タイムに入るものだと思い込んでいたのだが、なんとメンバーがステージ上に留まり、長尺のトークタイムが始まるのだった。「どうぞみなさん休憩してくださいね。これ大きな独り言なので聴かなくていいですからね」と勝田。メンバーによる他愛もない話から親交のあるフュージョンプレイヤーとのプライベートな暴露話まで爆笑必至な内容が手元のノートにはびっしりと記されているのだが、スペースの都合上割愛させていただくことご了承いただきたい。

 十分に場の空気が入れ替わったところで後半へ。組曲のように次々と展開が変わっていく「Destination」、これぞDIMENSIONサウンドというべきダンサンブルな「Make A Splash」と続く。前半はどことなく硬い感じがあったオーディエンスも気づけば皆リズミカルに身体を揺らしており、この会場を支配する空気に身を捧げていた。
 
 20年以上前のアルバム曲「Jungle Dancer」前に突然始まった則竹のドラムソロはこのライブのハイライトと言い切れるものだった。観る者から溜息さえ出てしまうほどのテクニック、安定感の塊ともいうべき抜群のリズム感。一人、スポットライトを浴びる則竹は自身も輝きを放つ壇上のダイヤモンドのように映った。

 最新アルバムからエレクトリックなエフェクトが効いた「Change The Game」が演奏され、圧巻のプレイングへの会場全体を包み込む盛大な拍手とともに本編が終了。もはやお決まりの如く客席からの手拍子に演者たちも応え、アンコールへ突入した。「またこうしてみんなで集まってライブがしたいね。これから寒くなって乾燥する季節になっていくのでね、みなさん気を付けて」と、この日を待ちわびていたファンを気遣う増崎の一言には重みがあった。最後は盛り沢山だったこのライブを爽やかに締めくくる「Brighter in your life」。これでもかと言わんばかりの勝田と増崎のユニゾン・コンビプレイに脱帽し終演を迎えた。

 筆者はこれまでいくつものバンドでサポートに入っている則竹裕之を見てきたが、この日以上にリラックスしつつも楽しそうにリズムを刻んでいた則竹を見たことがなかった。今の則竹にとってDIMENSIONがホームなのだろうと思うと同時に、その則竹主導の新しいDIMENSIONのライブは“新次元”を表していたに違いない。

Text by かねこけーた(かわさきジャズ公認レポーター)
Photo by Tak. Tokiwa

◎公演情報
【かわさきジャズ2020
則竹裕之フュージョン・スペシャル ~ featuring DIMENSION】
日時:2020年11月10日(火)
会場:ラゾーナ川崎プラザソル
出演:増崎孝司(g)、 勝田一樹(a sax)、則竹裕之(ds)、安部潤(key) 、田中晋吾(b)