松坂が語ったのは、マウンドの“質感”だった。硬いマウンドは、踏み出す左足を軸にして上半身を鋭くターンさせる「パワータイプ」の投手には有利だが、その分、左足の着地時の負担は大きい。

 本拠地のマウンドなら、登板する投手の好みに応じ、マウンドの硬軟を微妙に調整することができる。敵地のマウンドがうまくフィットしなかったのだろう。しかも、ストレートの平均速度が140キロ前後と、全盛期に比べて5~10キロは落ちている今の松坂に、硬いマウンドはむしろ必要はない。

 それどころか、試合前から張りを感じていたという右ふくらはぎに1球ごとに小さなダメージが積み重なり、それがいつしか限界値に達した--。

 今回の早期降板はそう読み取ることができそうだ。41球、打者13人に対し、被安打4の4失点。三振を1つも取れなかったあたりに苦しさが見ても取れるだ。ただ、肩や肘に異常を感じているわけではない。松坂は試合後、不安視する周囲の声を封じるかのように少し語気を強めた。

「投げられます。長引くようなもんじゃない」

 ここまで中13日、中10日、中12日で先発してきた松坂を、森監督は今回の結果次第で中6日の先発ローテーションに組み込むことを検討していた。

 この結果と右足のアクシデントを踏まえれば、その構想はいったん棚上げになるのでは? 

 その見方を指揮官もあっさり否定した。

「球数も投げていないしな。肩、肘じゃないだろ。こっちも、中4日とか中5日で行けと言ってるんじゃない。大きな心配はしてないよ。痛いとかじゃないんだし。本人が大丈夫というなら、大丈夫なんじゃないのか?」

 確かに、41球の球数なら肩、肘へのダメージも少ない。先発投手陣のコマ不足が否めない中日にとって、4月の3試合で18イニング・自責点4、防御率2.00と、先発としてしっかりとゲームメークができる松坂の存在は大きい。下半身の疲労や張りが取れれば問題はないとする森監督の判断は願望もこめた“安心論”でもあるだろう。

次のページ 江戸の仇は尾張で討つ