そんな坪内さんについて「大阪の飲み屋街で遊び回っとるらしい」といううわさがたち始めた。
漁師たちの坪内さんを見る目がだんだん厳しくなる。ついにある日、くすぶっていた不満が爆発した。
船団長の長岡さんと坪内さんの意見が対立。激しい言い合いからつかみ合いになったのだ。話し合いの場から立ち去ろうとした長岡さんを引き留めようと坪内さんが彼の服を掴むと、思わぬ展開に発展する。
「勢い余って長岡のメガネが飛ぶし、ウインドブレーカーは破けるし。長岡が急にシュンとしたんでおかしくて」
坪内さんは思わず吹き出してしまった。そんな坪内さんを見て長岡さんもどこか気が落ち着いたようだった。
漁師たちは息を飲んで坪内さんを見つめていた。気がつくと、坪内さんは海の男を前に一歩も引かない、荒くれ集団の女ボスになっていたのだ。
それからも漁師たちとの対立は数えきれないほど勃発した。漁師たちをまとめていた長岡さんが船団丸をやめて、半年ほど顔を出さなかったこともあるという。
「それでも、萩大島の漁業を何とかしたいという思いはみんな同じ。目的が同じならひとつになれます。最終的には長岡も戻ってきて、今もけんかしながら、試行錯誤を続けています」
坪内さんは漁師たちの収入を支えるため、多角化を行う新しい会社「株式会社GHIBLI」も設立した。
これから先、坪内さんと漁師たちには何度も試練や転機が訪れるだろう。それでも「海が青いうちは漁業を続ける。日本中の漁業を元気にしたい」と、漁師のボスの坪内さんは明るい未来を語るのだ。(文/辻由美子)