2017年12月に沖縄県内で起きた交通事故で、「米兵が日本人を救出した」という美談を、沖縄タイムス、琉球新報の2紙が黙殺した……。そう報じた産経新聞は、「事実関係の確認が不十分」だったとして、記事を削除した(18年2月8日付に「おわびと削除」を掲載)。しかし、一度拡散されたネガティブな印象は、そう簡単には拭い去れない。実際に今でも、沖縄2紙が米兵の美談を黙殺したと思っている人は、少なからず存在しているのだ。
著書『ルポ沖縄 国家の暴力』(朝日新聞出版)でも沖縄をめぐる報道のあり方について問題提起した、沖縄タイムス記者・阿部岳が今回の騒動をリポートする。
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取材しないまま沖縄を罵倒する。産経新聞は過去にも同じことを繰り返している。
「沖縄県が観光収入を過大発表 基地の恩恵少なく見せ、反米に利用か」という記事(2018年1月4日)があった。観光収入は国も他府県も同じ方法で計算していて、沖縄だけが特別ではない。翁長雄志知事は「筋違い」「沖縄だけをこのように取り上げ、基地依存をごまかしているような話にするのは大変残念」と失望を語った。県には一度も取材がなかったという。
ラッパーの大袈裟太郎氏が辺野古新基地建設への抗議行動中、警察官の合図灯を奪ったという公務執行妨害と窃盗の容疑で県警に逮捕された時の記事(17年11月10日)は激越だった。記者が自らの文章で大袈裟氏を「いわくつきの人物」、逮捕を「朗報」と書いた。
さらにネット上のコメントを引用し、「高江を皮切りに辺野古でも暴力の限りを尽くし」「天誅(てんちゅう)が下った」「沖縄から追放、強制送還すべき」などと攻撃した。「暴力を振るったことはない」と否定する大袈裟氏は「社会的に抹殺されかけた。全国紙が個人について、ここまでデマを書くのは恐ろしい」と話す。
自衛隊基地建設に反対する前宮古島市議、石嶺香織氏は繰り返し標的にされた後、「月収制限超える県営団地に入居」「資格より大幅に上回る」という記事(17年3月22日)を書かれた。県の規定上、入居には何の問題もない。石嶺氏は「入居が法令違反でないにもかかわらず、印象操作で問題のように仕立てた」と批判。訂正を求める内容証明を送ったが、返事はない。