略奪、放火に大漁船団。中国の見せたかつてないほどの激しい敵意は、何を意味するのか。
〈一連の強硬な対抗策を主導しているのは、胡錦濤(フーチンタオ)国家主席ではなく、中国共産党の次期総書記に内定している習近平(シーチンピン)国家副主席〉
〈胡政権による対日協調路線が中国の国益を損なったとして、実質上否定された形〉(以上、9月19日付産経新聞より)
なんと、次期トップに内定している習近平氏(59)が、反日の"首謀者"だというのだ。もしこの指摘が正しいなら、日本にとって暗澹(あんたん)たる情報ではないか。
胡錦濤国家主席(69)、温家宝(ウェンチアパオ)首相(70)ら現主流派が、出身母体の共産主義青年団から「団派」と呼ばれるのに対し、習近平氏は元副首相を父に持つ高官の子弟「太子党」。その背後には江沢民(チアンツォーミン)前総書記(86)を中心とする「上海派」がついており、「団派」と「太子党」+「上海派」が対立しているとされる。
反日教育を主導するなど対日強硬路線のイメージが強い江沢民氏に近いとあれば、習近平氏が"反日派"と見られるのも当然。ただ、中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏はこう語る。
「福建省や浙江省でキャリアを積んだ習近平は、日本との絡みも人脈もあまりない。良くも悪くも、日本に対する思い入れはないはず。性格は八方美人で決断力がないと言われるが、彼を抜擢したのは太子党のボスで、江沢民の側近だった曾慶紅(ツォンチンホン)元国家副主席。習は『大アニキ』と呼んで慕っており、曾の影響下にあると見ていいでしょう」
こうした背景を踏まえつつ今回のデモを読み解くと、「反日」の衣に包まれた「権力闘争」というキーワードが読み取れる。
「今回のデモ自体は"弱腰"という批判を避けるために胡錦濤政権が起こしたものでしょうが、工場やデパートの破壊などは明らかにやりすぎで、政権へのダメージになる。団派の信用失墜を狙った反胡錦濤派がデモに紛れ込んで主導した可能性がある」(宮崎氏)
※週刊朝日 2012年10月5日号