外国人取締役「4人組」は、その場を動こうとしなかった。2、3度促しても動かないので、牧田栄次社長(58)が「別室にて役員会を続ける」と宣言。日本人取締役3人が社長室に移動し、最後の議案を全員一致で否決した――。
1971年創業のエース交易は約250人の従業員を抱える業界大手の商品先物取引業者。そんな老舗企業に何が起きているのか。同社幹部がこう解説する。
「ウチは榊原秀雄というワンマン創業者が大きくした会社。榊原氏は相場好きで損失を出すことも少なくなかったが、成長を続けてきた。会社が保有する不動産や株式なども豊富で、現金などを加えた純資産は100億円以上ある」
御年81の創業者が今年に入って経営陣に招き入れたのが、租税回避地のケイマン諸島に本店を置く外資の金融会社タイガー・トラスト社(以下タイガー)の外国人取締役4人だった。エース交易は今年4月にタイガーと資本・業務提携することで合意。その中身は、タイガーから3年間で約8億円を調達する一方、エース交易もタイガーの子会社2社の株式を引き受けるというものだった。
ところが6月、牧田社長はタイガー側から子会社2社の株式の取得金額として16億円を提示された。2社とも非上場で、1社は赤字、1社は設立2年目。とても額に見合うとは思えない。資産査定をすると、2社の株式の価値は提示金額の7分の1程度だったという。しかも、タイガーからの"入金"はいまだ1千万円のみ(9月6日時点)。このままだと、エース交易側が一方的に15億円以上をつぎ込む計算になる。
話がこじれたところで登場したのが、NHKの元アナウンサー・S氏だ。S氏はエース交易から月75万円の報酬を受け取る契約を結び、外国人取締役の「秘書役」として出勤する。
エース交易の古参役員は、株取引に関する議案を否決。資本・業務提携の解消に向けた交渉を始めることも決議した。これに対しタイガー側は翌9月7日、自分たちだけで取締役会を開き、牧田社長を代表取締役社長から解任した。今も本社ビルの12階の役員フロアには外国人取締役が出入りし、11階以下で幹部社員が"作戦会議"を開くという異様な空気の中、一般社員が働いているという。
※週刊朝日 2012年9月28日号