僕にはそんな話は関係なかった。運河に沿うように建つ駅舎に見入っていた。ヨーロッパの駅は迫力があるが、運河がこんなにも似合う駅を僕は知らなかった。
アムステルダムは、ユーラシア大陸の西、大西洋に面している。アジアからヨーロッパに向かっていくと、終点の雰囲気がある。旅の疲れが出る頃でもある。そんなとき、アムステルダム中央駅は、妙に優しく映る。
今年の3月、僕は再びアムステルダムにいた。シベリア鉄道に揺られ、モスクワからワルシャワ、ベルリンを通ってアムステルダムに辿り着いた。やはり夜だった。
アムステルダムのホテルは高い。ゲストハウスに毛の生えたような宿でも1泊2万円近くする。旅の果てのこの物価は応える。
駅を出て、やはり振り返っていた。
アムステルダム中央駅は、やはり優しく映った。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など