グッズはこれだけではない。17年4月に発売した「かっぱカレー」は、パウチを開けると「お母様の大好きな尻子玉」と表現されたウズラの卵がコロコロと出てくる、一見キワモノのレトルトカレーだ。食べてみると、辛めのキーマカレーに尻子玉……もとい、ウズラの卵のほのかな甘みがマッチしていておいしい。町役場だけでなく、インターネットでも買えるので、ぜひ試してみて欲しい。

 小川さんの妖怪シリーズはこれに留まらない。17年3月下旬には、JR福崎駅前にカッパ、辻川山公園の駐車場にてんぐをモチーフにしたベンチも設置した。福崎駅前のベンチでは、片側に座ったカッパと将棋の対局ができる。強化プラスチック製のカッパのリアルさはもちろん、盤面にもこだわり、地元の将棋クラブ一押しという、羽生善治竜王(当時)と谷川浩司九段が対戦した1996年竜王戦の有名な一場面を採用したというこだわりぶり。

 一方、辻川山公園のベンチでは、向かって右端に座ったスーツ姿のてんぐが、ひざに置いたパソコンの画面を微妙な表情でにらんでいる。どうやらパソコンでグーグル検索しているようなのだが、果たして何を検索しているのか? 先に挙げた将棋の盤面と共に、ぜひ現地で確認してほしい。

 公園のカッパ像から始まり、プラモデルに妖怪ベンチ。なぜそこまでリアルな妖怪にこだわるのか。その原点は、小川さんが幼いころに体験した町内にある天台宗の寺、妙徳山神積寺の行事「鬼追い」にあった。「山の神」の家来の鬼が舞い踊り、集まった人々を追いかける。「鬼に追いかけられて、怖くて仕方がないんですけれど、何度も見に行ってしまう。だから、怖い、キモイ妖怪という路線は、これからもぶれずにやっていきます」

 取材後、カッパ像やてんぐ像のある辻川山公園を訪れた。満開の桜の下、小さな子どもからお年寄りまでが池の中をのぞき込んでいる。カッパが出てくると「ひっ!」と驚き、再び池に沈むと「いいもん見たわ」と帰っていく。カッパ像は4月19日にリニューアルされ、今度はカッパの両隣に子ガッパが加わった。破天荒な福崎町のまちづくり、今後もぶれずに続けてほしい。(ライター・南文枝)

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