物語はごく平和にその日常が描かれ続ける。それは1941年(昭和16年)12月に大東亜戦争(太平洋戦争)が始まっても変わらない。開戦後もかなりの期間、すずを中心とした生活は平和に描かれている。この間、すずにとっての一番の変化は結婚だった。1943年(昭和18年)12月に縁談が持ち上がり、翌年2月に広島市江波町から呉市上長之木町(現・畝原町)に嫁いでいる。広島から呉に汽車で移動するのだが、戦時中の暗さは感じない。その後、呉市内の移動で木炭バスが登場し、すずの兄が出征しているので、結婚式に出席できないといった描写によって、ここでようやくハッとさせられた。
その後、着物から「もんぺ」を仕立てたり、食料が配給制になり、それもやがて乏しくなったりと、暮らしぶりの変化で戦時下の様子は描かれている。だが、あくまで「困ったねえ、どうしようねえ」と知恵を絞る姿勢で描かれており、野草を摘んでおかずの足しにしたり、時には配給で手に入らないものを闇市に買いに走ったりと、平和な生活そのものが中心に描かれている。
実際、呉への初空襲は、東京大空襲の9日後となる1945年(昭和20年)3月19日。開戦から3年3カ月も経ってからになる。当時、国内で暮らしていた人たちも、空襲が始まるまでは戦争をそこまで実感していなかったのかもしれない。そこから終戦まで5カ月もないのだが、映画ではこの期間が特に濃厚に描かれる。