それにしても、私たちは、なぜ生命科学を学ぶ必要があるのか。大隅先生は、理由を二つ挙げています。
まずは「人間は地球上の生物のひとつである」という認識をもってほしいからだというのです。
もうひとつの理由は「自然を考え直す」ことです。大隅先生が子どもだったころの時代は、田舎で自然と一体になって生きてきたことが実感としてありました。日常的に作物がすぐそばにありましたし、野原で食べ物を採って食べることもがありました。そういう実体験が、現代ではだんだん減っています。そこでもう一度、「自然を考え直す」ことが、生物学に限らず学問を学ぶ上で大事だというのです。
生命科学の進展は、私たちの常識を覆し、新たな社会の到来を告げています。しかし、だからこそ批判的な視点が必要だと大隅先生は指摘します。
「一人ひとりの知識と、きちんとした批判能力が現代人には問われていると思います。最近は再生医療が注目されていますが、一部の人たちだけで決めるのではなく、社会的なコンセンサス(同意)が必要なはずです。今、何がどこまで実現していて、本当にこのままでいいのだろうかと、社会全体で考えるべきです。今は報道などで簡単に誘導されてしまい、批判的に考えることはそう易しくはないのですが、このままでは人類は豊かにならないのではないかと危惧しています」
生命科学は、現代で生きるために必須の常識であり、現代の良識の基礎になるのです。(池上彰)