「15年10月にワイン等の表示基準が定められ、日本で製造されるワインは『国内製造ワイン』に区分されるようになりました。この中には、国産ぶどうのみを原料とした『日本ワイン』のほか、輸入濃縮果汁や輸入ワインを原料とし、日本で製造されたワインも含まれています。国産原料か輸入原料かの違いはありますが、どちらも日本で製造されたワインで、基本的な製造工程に違いはありません。メルシャンの藤沢工場では、輸入原料を使ったワイン製造で、藤沢市のワイン生産量日本一を支えています」

 日本で生産したワインというと、原料も国産というイメージがあるが、実は原料を海外から輸入し、国内で製造したものも「国内製造ワイン」と呼ばれる。そして藤沢工場では、海外原料を使用した「国内製造ワイン」の製造量が多いのだ。しかしそうなると、なぜあえて藤沢市にワインの工場をつくったのか、という疑問が残る。それには、メルシャン創業の歴史が関係している。

「もともとは、兵庫県の酒造家がつくった『大日本醸造』が、米を使わずにつくる合成清酒に着目し、原料のイモや麦の産地だった藤沢で、合成清酒やアルコールを製造した事にさかのぼるようです」(広報担当)

 その藤沢にある工場を、メルシャンの前身となる会社が1961年に取得。会社は合併、社名変更などを経ながら、現在の「メルシャン株式会社」となった。そうして藤沢の工場も、メルシャン藤沢工場として海外から原料を輸入、ワイン製造をするようになったという。

 つまり、始めはイモや麦を材料とした酒を造る工場だったところが、その後ワイン工場になったということなのだ。とはいえ、現在はその立地がワインの製造にも生きている。横浜港が近いために輸入の際に便利で、さらに首都圏が近いことから物流上でも有利、といったメリットがあるのだ。もとはワインにゆかりのない場所だったが、結果的には国内製造ワインをつくる上では利便性の高い立地だったのだ。

 ちなみに、そんな藤沢工場で製造されるワインは「デイリーワイン」と呼ばれる、価格が手ごろなもの。一口にデイリーワインといってもその種類は200品目以上。気軽に味わえることに加えて、産地などが異なる原料でも、ブレンド技術により安定した味を楽しめることが特徴だ。

 「ワインの街」というには若干意外性がある藤沢市だが、近年はそれをアピールすべく、地域も動きだしている。昨年は藤沢商工会議所青年部が「藤沢ワイン祭り」を初めて開催。メルシャン藤沢工場も協力し、試飲ブースの出店や地元食材との組み合わせの紹介、トークショーなどを実施した。

 さまざまな背景で「ワイン生産量日本一」のタイトルを手にした藤沢市。今後のアピール次第では、「ワインの街」というイメージを定着させることもできるかもしれない。(文・横田 泉)

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