「びっくりぽんそろばん」を眺める宮永さん。パチパチはんと同じ「天二地五」の仕様だ
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名入れの希望も多いという「パチパチはんホルダー」(ダイイチ提供)
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幼いころからそろばんに親しんでもらおうと開発した「ベビそろ」(左)と「ケロそろ」
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そろばん愛から生まれた新製品「そろ香」。つるすだけでもよい香りがするという
そろばん愛から生まれた新製品「そろ香」。つるすだけでもよい香りがするという

 明治の女性実業家、広岡浅子をモデルにしたNHK連続テレビ小説「あさが来た」の放送も、残りあとわずか。ヒロイン「あさ」が、女性の“柔らかい力”を生かして炭鉱や銀行、女子大学校の設立を進めていく物語で象徴的な役割を果たしているのが、あさ愛用のそろばん「パチパチはん」だ。

 幼いころ、親同士が決めた結婚に納得がいかず、押し入れに閉じこもったあさに、突然現れた玉木宏さん演じるいいなずけの「新次郎」が差し出した赤いそろばん。そろばんにあこがれていたあさは「パチパチはんや!」と目を輝かせて受け取り、シャカシャカと振る。実はこのパチパチはん、播州そろばんの産地で全国生産の約7割を占める兵庫県小野市で作られたものなのだ。

 パチパチはんを生み出したのは、小野市のそろばん製造販売会社、ダイイチ。1909(明治42)年創業の老舗だ。10年に公開された映画「武士の家計簿」に出てくるそろばんも、同社が制作した。

 NHK側からそろばん制作の依頼があったのは、15年1、2月ごろ。「両替商の朝ドラで出すそろばんを作ってほしい」というものだった。「女性が使うため赤色」「『天二地五』(横に渡したはりの上の玉が2つ、下の玉が5つで、16世紀に中国から伝来した時の形)で」「枠に梅の木を使ってほしい」などの細かい条件を満たすために試作を繰り返し、約3カ月かけて完成したという。

 播州そろばんの制作は、玉を作る「玉削り」、玉に穴を開ける「玉仕上げ」、玉を通す「ヒゴ竹作り」、それらを組み立てる「組み立て」の4工程で、すべて分業だ。社長の宮永信秀さんは「パーツを組み上げて磨き、赤い色を塗り重ねるのが大変だった」と振り返る。

 そうやって苦心したパチパチはんが、テレビ画面に登場した時の喜びはひとしおだった。宮永さんの父親で会長の英孝さんは「新次郎さんが差し出した時に、暗やみの中でひときわ赤色が目立っていた。それもあって赤色だったのかと思った」と話す。パチパチはんは、あさが成長してからも度々登場するが、「いつ出るか、いつ出るか」と楽しみにドラマを見ているそうだ。

 朝ドラ人気を受け、同社は15年11月、NHK側の許諾を得て同じ形の「びっくりぽんそろばん」(税別3万5000円)を発売。枠にはホワイトアッシュを使い、裏面に朝ドラのロゴを入れた。現代の「天一地四」のそろばんで同様に配色した「パチパチはんそろばん」(同2400円)、一桁のストラップ「パチパチはんホルダー」(同700円)も作った。

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