共同開発したNeXT CUBEやNeXT Stationというパソコンもあまり売れなかったが、酒巻氏がジョブズ氏の「時代と技術を見抜く目」に改めて感心したのが、初代のiPhoneを見た時だ。NAVIで実現していた「タッチパネル」と「戻るボタン」を引き継いだiPhoneは、まさに時代を変える新しい製品の登場だった。

 孫正義氏とスティーブ・ジョブズ氏に共通するもの。それは「時代と技術を見抜く目」の確かさである。最先端の技術であっても、それだけで時代を変える新製品が開発できるとは限らない。パソコンで言えば、メモリやCPUが大きく速くなり、劇的に安くなったタイミングで、初めてスマートフォンは可能になったのだ。新規事業を起こし成功させるには、早すぎても遅すぎてもダメで、ベストのタイミングを見極めなければならない。

 その「見抜く力」を養うのに必要なのが、読書や美術、音楽、工芸などに幅広く接することで得られる教養だと酒巻氏は言う。ジョブズ氏も孫正義氏も、一流の人はみな例外なく教養ある人たちであり、本物に接することで「シンプルで美しい本質」に最短距離でたどり着くことを知っている人たちなのだ。酒巻氏も読書家として知られているだけでなく、技術者は本物に接しなければいけない、ということで若い頃から足しげく美術館や音楽会に足を運んできている。

 専門バカでは、これからの時代を生き抜くことはできない。テレビやスマホゲームに時間を費やすのは止めて、今日の会社帰りに、美術展に足を運んでみるのはどうだろうか。