建築家、作家、現代美術アーティストとしての顔を持ち、2010年5月本で"新政府"を樹立した坂口恭平氏。故郷への移住は、福島第一原発が爆発し、妻と当時3歳の娘を避難させたことがきっかけだったが、そもそも「食っていけないから」「経済がまわらないから」という理由で、すべてをお金で解決する社会に疑問を持っていたという。

「資本主義の中にいろいろな種類の経済があってもいいのではないか。例えば、社会を少しでもよくしようという態度を見せ続ける人を、社会は飢え死にさせない。手を差し伸べ、相互扶助を始める。僕はそれを"態度経済"と名付けました」(坂口さん)

 実際、坂口さんの"態度"に賛同する企業や行政機関も多い。熊本県や長野県、愛知県高浜市とは、家賃のかからない可動式の家"モバイルハウス"を使ったプロジェクトを構想中だ。スルガ銀行は、東京ミッドタウンのビルの一室を"新政府"の大学として提供している。ミサワホームからお呼びがかかったこともある。

「お金なんて大した価値がない」と思ったとき、後に残るのは何か。それが"生きること"の核心だ。これまで常識とされていたことを一つひとつ問い直す。本質をあぶりだす。世界の見方を変える。坂口さんが自身の活動を「芸術活動」と呼ぶゆえんだ。

※週刊朝日 2012年7月13日号