「私たちは感染症にかかったとき、体温を上げることで微生物の増殖を抑えるといわれています。むやみに熱を下げるのは好ましくないのです。ただ、起き上がれないほどつらい熱があると、体力が奪われて免疫が低下してしまう。そのときは頓服として、熱の下げ方がマイルドなアセトアミノフェンを使います」
国立感染症研究所の報告によると、発症した新型コロナ患者の約6割に熱症状があった。
だが、新型コロナが流行している今は少なくとも、発熱に対する非ステロイド系抗炎症薬の服用については、慎重になったほうがよさそうだ。
命の危険がある新型コロナによる重症患者を救う手段として、今、期待されているのが、「ECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)治療」だ。日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本呼吸療法医学会の集計によると、3月11日時点で、ECMO治療を受けた重症の新型コロナ患者は23人。このうち12人が回復、11人が治療継続中で、死亡した人は一人もいない。
「回復した方の中には人工呼吸器も外れて、退院された方もいます」
こう話すのは、日本COVID−19対策ECMOnet代表の竹田晋浩(しんひろ)医師。学会のバックアップを受け、新型コロナのECMO治療の陣頭指揮をとっている。
ECMOは、肺に変わって血液内に酸素を供給し、二酸化炭素を除去する装置。首や足の付け根から血管内に挿入したチューブで血液を体外に出し、装置のなかでガス交換を行ってから、体の中に戻す。
なぜ、この治療が重症患者を救うのか。その理由を、竹田医師が解説する。
「現在、重症の呼吸不全の患者さんには、人工呼吸器を使った治療が行われていますが、肺の機能が低下するほど人工呼吸器の設定を強くしなければならず、それがかえって肺にダメージを与えてしまっています。この悪循環を断ち、肺を休ませて、呼吸機能の回復を図るために用いるのがECMOです」
2009年に新型インフルエンザが流行した時、欧州で重症の呼吸不全の患者にECMOを使ったところ、約7割の患者に有効だった。以来、日本でもECMO治療の体制を整えた。
学会の調べによると、ECMOは全国に1400台ほどある。このうちの一部が現在、新型コロナ対応に用いられている。
この治療が受けられるのは、重症の呼吸不全を起こした患者で、年齢や持病の状態など、総合的に適応かどうかが判断される。
「新型コロナの流行から1カ月以上経ち、重症患者さんの経過なども少し見えてきました。その中でわかったのは、適応があれば重症の方でもECMOで救命できる可能性があるということ。期待できる治療だと思います」(竹田医師)
(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2020年4月3日号