6月8日、世界最大の原発事故を起こした国のトップが、原発再稼働に舵を切った。首相官邸の周囲には、「再稼働、反対!」のコールが渦巻いていた。20分42秒で終わった野田佳彦首相の記者会見は、白々しさに満ちていた。

「国論を二分している状況で、ひとつの結論を出す。これはまさに私の責任であります」

 野田首相はそう言って大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を宣言したが、「責任」の2文字は「無責任」と置き換えられるべきだろう。

 会見の中身も疑問だらけだ。

「安全基準に絶対はない」と認めながら、「事故を防止できる対策と態勢は整っている」と言い切る。

 夏場の電力需要のピークが近づいたことを決断の理由に挙げたのに、一方で、

「再起動はスケジュールありきでは考えない」

「夏場限定の再起動では、国民生活を守れない」とも。

 そんな首相の「ウソ」がもっともよくあらわれたシーンが、福島の被災者に触れたくだりだ。

「事故の記憶が残るなかで、多くのみなさんが原発の再起動に複雑な気持ちを持たれていることはよく、よく理解できます」

 わざわざ「よく」を繰り返すなど、言葉は丁寧なのだが、事実は違う。

「私たち福島県選出の民主党国会議員は、再稼働は慎重に判断すべきだという申し入れをしようと野田首相に面会を求めてきましたが、1カ月以上もたなざらしのままです」

 こう明かすのは民主党の増子輝彦参院議員だ。

 鳩山、菅内閣で経産副大臣だった増子氏は、日本の原発輸出の旗振り役としてベトナムやサウジアラビアを訪問。「多少のトラブルや事故はあっても、私の地元では40年近く、原発の安全・安心は確保されている」と、福島の原発を「セールストーク」に使ってきた。

 だが事故後は、日本で失敗した原発を海外に売りこむことはできない、と考えを改めた。

※週刊朝日 2012年6月22日号