事件当時、心愛さんが亡くなった自宅マンションの部屋の前には花や菓子が供えられていた (c)朝日新聞社
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AERA 2020年3月30日号より

 その凄惨さに多くの人が衝撃を受けた千葉県野田市の栗原心愛(みあ)さん虐待死事件。懲役16年の実刑判決を出された、父親の勇一郎被告はどのような人物なのか。事件の背景や裁判の様子を取材したAERA 2020年3月30日号の記事を紹介する。

【写真】心愛さんが亡くなる3カ月前に書いた「自分への手紙」

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「被告を懲役16年とする」

 3月19日午前11時過ぎ、千葉地裁201号法廷。裁判長の判決言い渡しを、証言台に立った栗原勇一郎被告(42)は身じろぎせず聞いた後、一礼して自席へ戻った。

 千葉県野田市で2019年1月、小学4年の栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)が死亡した事件。心愛さんを虐待死させたとして、傷害致死罪などに問われた父親の勇一郎被告に対し、千葉地裁は懲役16年(求刑同18年)の実刑判決を言い渡した。

 黒のスーツに青のネクタイ、めがねを身につけた勇一郎被告は、判決理由が朗読される約1時間、まっすぐ前を見たまま。表情を変えることなく淡々とした様子で聞いていた。

 懲役16年は児童虐待事件としては異例だ。過去、同種の虐待事件では10年前後の判決が多く、東京都目黒区で5歳の女の子が虐待を受け死亡した事件では昨年、東京地裁が父親に懲役13年を言い渡した。今回の判決は、勇一郎被告が心愛さんに食事や十分な睡眠を与えず、冬に冷水シャワーを浴びせるなど「もはや虐待の言葉では表現できず、拷問、なぶり殺し」と強く訴えた検察側の主張に沿った量刑となった。もちろん、その罪を考えれば、どんな量刑も見合うものではないのだが。

 しかしなぜ、尋常では考えられないほど凄惨で非道な事件が起きたのか。

「典型的な虐待加害者による事件です」

 DV被害者の支援団体「エープラス」代表理事で、多くの虐待加害者とも関わってきた吉祥(よしざき)眞佐緒さん(50)は言う。

「まず、外面がいいのが虐待加害者の特徴。その一方で家庭では自己中心的。この家は俺の家で、俺を中心に回っていると考えているからです」

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