新型コロナウイルスの企業活動への影響は、小売業から商品を供給する卸売業や製造業にも波及している。AERA2020年3月30日号は、不振にあえぐ企業を取材した。
* * *
大型の工作機械が整然と並んでいるはずの倉庫は今、がらんと空洞が目立つ。以前は十数人の作業員がフォークリフトで入出庫に追われていたが、人影もなく静まりかえっている。
「このままだと5月には在庫が尽きます」
大阪府の物流会社の男性会社員(50代)は、ため息交じりにこう明かした。工作機械の運搬を担う同社が「異変」を感じたのは昨年の秋口だという。
「消費増税の駆け込み需要の反動で受注が落ち込み、景気後退を実感するようになりました」
今年に入って新型コロナウイルスの影響が加わると、経営はさらに揺さぶられた。工作機械には中国製部品が多く使われており、部品の納入が滞ったため、製品の仕入れがままならなくなったのだ。
2月の売り上げは前年同月の半分以下に落ち込んだ。注文が減り、製品の仕入れも滞れば必然的に人手が余る。先行きが見えない中、管理職の男性は人員整理を検討せざるを得なくなり、派遣社員2人を3月末で契約解除することを決めた。男性はしみじみとこう語る。
「大阪で暮らしていると、電車内も外国の人があふれ、インバウンドで日本経済が回っているのを実感します。しかし今回の経験で、内需とは無縁の景気拡大の脆弱さを思い知りました。インバウンドに頼らず内需を拡大し、部品調達も国内に切り替えるべきだと思っています」
東京商工リサーチが3月2~8日に実施した、新型ウイルスの企業活動への影響に関するアンケート(有効回答1万6327社)によると、業態別で「すでに影響が出ている」との回答が最も高い割合だったのは道路旅客運送業(29社全て)だった。次いで宿泊業の96.5%(86社中83社)、飲食店の91.7%(133社中122社)、旅行業や葬儀業、結婚式場業などを含む「その他の生活関連サービス業」の90%(100社中90社)と続いた。
担当者はこう解説する。
「消費者やインバウンドなどを対象にした『BtoC』ビジネスの停滞が小売業を直撃し、その後は商品を供給する卸売業、商品・製品を作り出す製造業に波及しています。サプライチェーンの混乱による部材の供給遅延・停止は、製造業や建設業にも影響するなど、新型ウイルスの感染拡大は需要減少と供給混乱が同時に進行する異常事態を招いています」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2020年3月30日号より抜粋