

「コンビニ百里の道をゆく」は、50歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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私の社会人生活は27年前、東京で始まりました。直前まで地元の大阪で過ごし、上京したのは入社式前日でした。
東京駅で小腹が空いて、立ち食いうどんを探すも見つからない。やっと見つけた蕎麦屋で、きつねうどんを注文したら、出汁(だし)が黒くて麺が見えない。そうだ! これが東京のうどんだと洗礼を受けたような気持ちになりました(笑)。
カルチャーショックは続きます。当日夜遅くまで続いた寮の歓迎会のお酒が少し残った翌朝の朝食にはほとんど初体験のにおいとネバネバ感満載の納豆。大阪では食べる習慣があまりなく、お茶で流し込んだり……。そんな納豆も毎日食べるうちに少しずつ好きになって今では好物の一つ。どれも些細(ささい)なことですが、「郷に入っては郷に従え」ということだと思うのです。
まだ若く、自分の中に確たる芯もない。まずは新しい環境にどっぷり浸かってみよう。そう思い、仕事だけでなく遊びの誘いも断らずに参加しました。違和感に気付いたり、関心のある分野が定まったり。そうして見つけた価値観は仕事でも活(い)きてきます。
次の転機は32歳で米インディアナ州に出向したとき。仕事も10年目で、やりたいこともある。でも、インディアナのことはよく知らない。ここでも生活面から入り込もうと、現地コミュニティーにも積極的に参加しました。
現地では日本とは違う時間が流れています。朝6時に出社し、夕方には帰宅。畑を耕して、酒を飲み、日が暮れると眠りにつく。広大な土地のおかげか、お金ではない豊かさがあるのです。仕事もしっかりしていて、現場の人は責任感も強い。さすがはアメリカで、ビジネスの源泉ともいうべき働き方がありました。
新生活に不安はつきものです。でも、新しい価値観に出会うチャンスでもあります。いくつになっても臆せず飛び込みたいと思っています。
※AERA 2020年4月6日号