大阪地検特捜部のフロッピーディスク改ざん隠蔽事件で犯人隠避の罪に問われ、3月に大阪地裁で懲役1年6カ月(執行猶予3年)の有罪判決を受けた元特捜部長の大坪弘道被告(58)。その控訴審の弁護団に元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎(のぶお)氏(57)が加わることが、5月10日に決まった。
「弁護士になり7年、刑事事件は初めての、『法廷デビュー』です」
と苦笑する郷原氏。コンプライアンス問題のエキスパートで、大阪地検の証拠改ざん事件を厳しく批判してきた。それが一転、弁護に転じるのはなぜなのか。
大坪被告と郷原氏を結んだのは弁護団長の田宮甫(はじめ)氏だ。大坪被告の司法修習生時代の指導教官だった田宮氏は、郷原氏とも親しかった。一審判決直後の4月初旬、田宮氏が判決の感想や控訴審の戦略について問い合わせると、郷原氏は自身の考えをまとめた書面を送付。その内容を弁護団が高く評価し、弁護団への加入を要請するに至った。
「私の主張は、検察の実務を理解した上で戦うべきということ。一審判決は大坪さんの特異な性格でこんな事件が起こったとしているが、そうではない。背後にある検察の構造的な問題を検証する必要がある」(郷原氏)
大坪被告は一審で「27年間の検事としての誇りを犠牲にし、改ざん行為をした検事をかばう必要はない」などと、隠蔽工作を強く否定。一方、郵便不正事件にはあまり触れなかった。
「なぜ郵便不正事件で村木厚子さんが無罪になったのか。事件を真摯に検証すれば、大坪さん個人を刑事事件の罪に問えないことがはっきりし、無罪判決が勝ち取れるはずです」(郷原氏)
お互いの検事時代には職場でよく雑談していたという郷原氏の説得に、
「大坪さんもだいたいは理解してくれて、ガッチリ握手しました」(郷原氏)
※週刊朝日 2012年5月25日号