半世紀ほど前に出会った97歳と83歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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■横尾忠則「もはやコロナ事変 フィクションが現実に」
セトウチさん
人間、一生の間に一度は戦争を体験することになっているように思います。だから今の戦後に生まれた人達は戦争を体験しないまま一生を送る人達で幸せです。われわれ第2次世界大戦を経験した人間にとっては、もう残された人生では戦争を体験しないで済むわいと思っていましたが、今のコロナを田原総一朗さんは第3次世界大戦と、またフランスの医師のベルトラン・ギデ氏はわれわれは戦争状態にあり、戦場とも言っています。それが見える敵なら物陰に隠れることもでき、また奇襲攻撃を敵に加えることもできるけれど、その敵は何十万、何百万の透明人間です。
それも突然襲われます。この敵は高齢者と持病を持つ人間を最優先して襲いかかってくるという。戦争で死にそこなって、ヤレヤレと思ったら、寿命も尽きかけているわれわれをターゲットにしているのです。だけど、戦争体験のない若い世代も最近はターゲットになって、高齢者より遥(はる)かに感染率が高いといいます。今の若い世代は戦争を体験しない人生を送るのだろうなあ、と思っていたら、このコロナ事変です。米国は国家非常事態宣言と言っています。この用語は平常時に使う言葉じゃないでしょう。戦争用語じゃないですか。フィクションがそのまま現実になってしまったのです。
でもセトウチさん、われわれは寿命で死ぬのかコロナで死ぬのかの瀬戸際にいますが、もうこの年になれば、どっちで死んだっていいよ、という開き直りはあります。でもこの間、104歳の老人が感染したけれど、完治しました。普通じゃ一巻の終わりだけれど、さすが戦争を体験した人です。かつての戦争で免疫力がついていたからコロナを退治できたんだと思います。この老人もセトウチさんもここまで生き続けたということは免疫力のせいです。免疫力がなければこれだけ長生きはできません。