緊急事態宣言から2週間が過ぎた。コロナ対策としての効果を分析するタイミングに来ているが、進まぬPCR検査のため、成果すら不明のままだ。支援策も定まらず、倒産する企業が続出する中、国はどう対応して行くべきなのだろうか。AERA 2020年5月4日-11日号に掲載された記事で、ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次さんに話を聞いた。
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緊急事態宣言という伝家の宝刀は、抜いてみたら竹光だった。
支援策として全国民への「1人10万円」の方針は、具体的な支給方法すらまだ決まっていない。強制力を持たない休業要請で補償の基準も自治体ごとにバラバラで、人件費と家賃の手当がつかず、飲食店を中心に既に倒産する企業も続出。21日には飲食店経営者ら約150人が記者会見し、賃料猶予に関する法整備を訴えた。
「今回のウイルスとの闘いが5月6日に終わるわけがありません。長期化を前提に、定期的に生活費を支給する仕組みを作り、企業にとって固定費である人件費と家賃に関して時間を稼ぐ手段を考える必要がある。この2点を5月6日以降の危機管理制度として構築するのが、政治家の責任ではないでしょうか」
ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次さんの訴えはシンプルで力強い。実際に諸外国では様々な経済支援が発動している。ドイツでは失業者に約65万円を支給し、家賃滞納を理由にした立ち退きを禁止。米国でも賃料の滞納があっても120日間は延滞料を徴収しないことなどを決め、シンガポールは商業用不動産の固定資産税を免除、その分を賃料から差し引くように義務付けている。
「日本の緊急事態宣言には政府に強い権限があるわけではない。各国でできていることを日本でやるためには、法改正が必要だと思うが、今議論している暇はない。今の法体系の枠組みの中で最大限できることをしてほしい」(矢嶋さん)
世界を丸ごと封じ込めた新型コロナが経済に与えた影響は、もはや08年のリーマン・ショックの比ではない。人の動きが途絶え、需要が限りなくゼロに近づいたことで、原油先物市場で史上初めてマイナスの価格がついた。備蓄しても腐ることのない原油を「金を払うから引き取ってくれ」という、想定不能の異常事態だ。矢嶋さんが言う。
「金融機関がダメになって事業会社に貸し渋りが出たのがリーマン・ショック。今回決定的に違うのは、航空会社を見てもわかるように事業会社から先にダメになる。リーマンのような従来型の不況では、企業が頑張って安いものを作れば需要を掘り起こせるけど、今回は相手がウイルスなので、民間企業は頑張ってもがくほど蟻地獄にはまる。民間が一切動けないので、公的機関がいち早く対策を打たないと誰も何もできないんです」(矢嶋さん)
終息後のV字回復を夢想するだけでは何も始まらない。五輪・パラリンピックは、1年待てば必ず実を結ぶ果実ではないのだ。(編集部・大平誠)
※AERA 2020年5月4日号-11日号より抜粋