ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は映画「007」シリーズのジェームズ・ボンドについて。
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コロナウイルス禍のあおりで『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が公開延期になったので、レンタルビデオショップに行き、007シリーズをまとめて借りてきた(なにせ二十四作もあるから欠品もあるし、あほくさいと知っているものは借りなかった。以下、早送りしたり、飛ばし飛ばし見た、偏向、偏愛のボンド評です)。
第一作『ドクター・ノオ』は大しておもしろくもないが、第二作の『ロシアより愛をこめて』で、ショーン・コネリーがブレイクした。洒脱(しゃだつ)な感じがスパイ役にぴったりで、ストーリーにも以降の作品で失われたリアリティーがあった(ただし、ショーン・コネリーの髪には違和感がある。というより、プロのヘアスタイリストがついていながら、もう少し自然なヅラにできなかったのか。ショーン・コネリーはこのあとヅラをとって『アンタッチャブル』『薔薇の名前』などに出演し、ほんもののいい俳優になった)。ちなみに、この作品に登場したダニエラ・ビアンキが歴代ボンドガールの中でいちばんだと、わたしは思っている。──えっ、ちがう? 好みですから。
第三作『ゴールドフィンガー』から荒唐無稽度が増して、第四作『サンダーボール作戦』あたりになるとストーリーそっちのけで派手なシーンばかりを追うようになった(この映画は高校二年生の冬休み、隣の高校の真知子ちゃん<仮名です>との初デートで見た。ミナミの南街劇場は超満員で立ち見をしたから、真知子ちゃんは背伸びをしても字幕が見えず、おまけに誰かにお尻を触られたと、怒りがわたしに向かい、映画館を出るなり、ぷいと帰ってしまった。そんなことなら、おれが触ったらよかったと思ったのは、後の祭りというものだろう。かわいい真知子ちゃんとのデートはその一回きりだった)。