「安倍政権は以前から、本来、地方が主導すべき地方創生政策を国主導のトップダウンで進めようとしていて違和感がありました。コロナ禍が長期化する中、今回、各自治体が取り組んでいるような、現場を知る人たちによる地域の事情に即したボトムアップ型の政治に転換しないと、地方は衰退していってしまうでしょう」

 今後、コロナ対策の主導権を握っていくことが期待される地方自治体だが、そこには「財源」というボトルネックが付いて回る。

 実際、今回調べた対策の中でも、当初予算では賄えず、「貯金」である財政調整基金から取り崩して対策に充てたり、木更津市(千葉県)や和泉市(大阪府)のように幹部や職員の給与や手当をカットして財源をねん出したりする自治体もあった。前出の佐々木氏は、今後、財源に余裕のある自治体と乏しい自治体で対策に“格差”が生じかねないと懸念する。

「現時点では人口や感染状況に応じて国から都道府県や市区町村に配られる1兆円規模の国の『地方創生臨時交付金』を使って、ある程度柔軟に独自の取り組みを実施できます。しかし、危機が長期化して経済が低迷すれば税収も落ち込み、来年度以降の予算に影響がおよぶ可能性があります」

<自治体の財政指標>
 自治体の財政力を示す指標はいくつかある。自治体ごとの考え方や、地域特有の事情や置かれた環境によって予算編成の仕方は異なる。健全性を判断するにはいろいろな指標をみる必要がある。ポイントを紹介しよう。
(1)「財政力指数」
 自治体を運営するのに必要な経費に対して、税収など自前の収入がどれくらいあるかを示す。数値が高いほど自前の財源で行政を運営する力が強いことを意味する。1を上回れば、国や都道府県の地方交付税や交付金を受けずに済み、「不交付団体」と呼ばれる。
(2)「財政調整基金」
 財源に余裕がある年に積み立て、不足する年に取り崩すことで財源を調整するためのもの。「もしも」の時に備えた貯金にあたる。
(3)「標準財政規模」
 人口に応じて想定される一般財源の規模を示す。標準的な行政運営をすれば、このくらいが見込めるだろうという仮想的な財源規模をいう。今回、財政調整基金と見比べてみたのは、自治体の規模は大小様々で、規模に応じた備えの厚さを比較するためだ。

(本誌・池田正史、松岡瑛理、吉崎洋夫/今西憲之)

週刊朝日  2020年5月29日号より抜粋

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大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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