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世界中で多くの劇場やホールの営業自粛が続くなか、再開を心待ちにするファンのため、過去に上演された名作をオンラインで公開する取り組みが広がっている。新国立劇場の「巣ごもりシアター」、歌舞伎座の舞台配信などの映像を楽しまれた方も多いだろう。
【石岡瑛子氏による「ニーベルングの指環」デザイン画の一部はこちら】
今回紹介するのは、ヨーロッパを代表するオペラハウスのひとつ、オランダ・アムステルダムの国立歌劇場<ネーデルランド・オペラ>によるオンライン・プロジェクト。現在、ワグナーの代表的なオペラ「ニーベルングの指輪」四部作が、期間限定で無料公開中だ(6月7日まで)。
<ネーデルランド・オペラ>による「ニーベルングの指環」は、国をあげてのプロジェクトとして、1998年に初演された作品だ(今回のオンライン公開は、2014年の再演時のもの)。その衣装デザイナーとして起用されたのが、伝説のデザイナー・石岡瑛子氏だった。彼女はどのような人物だったのか。このオペラとともに振り返ってみたい。
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■オペラの歴史的大作がネットで
ワグナー作詞作曲による「ニーベルングの指環」は、完成まで26年を要したグランド・オペラの歴史的名作だ。
北欧の神話や伝説を素材にワグナー自身の人生観をも反映させたこの作品は、「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の4部で構成され、通しで上演すると15時間以上かかることから、「音楽史上最長のオペラ」と言われることもある。黄金の指環をめぐって繰り広げられる、「愛と憎しみ」「生と死」の壮大なドラマが見どころだ。
そんな超巨編をプロデュースするのは、本場のオペラハウスにとっても一大事業。アムステルダム国立歌劇場を拠点とする<ネーデルランド・オペラ>は、伝統的オペラに現代的解釈を加えた斬新な公演を行うことで知られているが、衣装デザイナーに日本人を起用するのは、ある種の“賭け”だったと言えるだろう。
石岡瑛子氏は、1960年代に前田美波里を起用した資生堂のポスターが話題となり、70年代にはパルコでセンセーショナルなキャンペーンを次々と打ち出した、デザイン界のレジェンドだ。
80年代にニューヨークに拠点を移してからは、舞台、映画などにも活躍の場を広げ、マイルス・デイヴィス「TUTU」のジャケットデザインでグラミー賞、映画『ドラキュラ』の衣装デザインでアカデミー賞を受賞している。
ポスターやCM(広告)だけでなく、セットや衣装(舞台・映画)などジャンルを越境する数々の仕事を通じて、没後8年をへて世界的に再評価の機運が高まっているクリエイターでもある。