緊急事態宣言が解除された東京では、朝夕の通勤時間帯を中心に人波が戻ってきつつある/5月29日午前、渋谷駅前(撮影/写真部・掛祥葉子)
緊急事態宣言が解除された東京では、朝夕の通勤時間帯を中心に人波が戻ってきつつある/5月29日午前、渋谷駅前(撮影/写真部・掛祥葉子)
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京都工芸繊維大学の山川勝史准教授によると、換気をしていない空間で咳をすると20分後も飛沫が空中を漂っているという(写真:山川准教授提供)
京都工芸繊維大学の山川勝史准教授によると、換気をしていない空間で咳をすると20分後も飛沫が空中を漂っているという(写真:山川准教授提供)

 緊急事態宣言が解除され、かつてのようにオフィスへの通勤が始まる人も多い。感染拡大の第2波を防ぐカギは、「出勤」と「欠勤」の間にあるという。AERA 2020年6月8日号では、感染リスクを最小にする工夫や考え方を専門家に聞いた。

【写真】換気をしていない空間で咳をすると20分後も飛沫が空中を漂っているという

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 確認される感染者数は大きく減った。1日の新規感染者が200人を超えることがあった東京でも、最近はおおむね20人以下で推移している。しかし、市中からウイルスが消えたわけではない。人出が増えれば、感染者は再び増加するのではないかと不安を抱える人は多い。

 私たちはこのウイルスとどう向き合っていけばいいのだろうか。感染症に詳しい内科医で、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師はこう話す。

「全体像を見れば、健康な人が過剰に恐れる必要はない病気です。それでも、経済活動の再開で今後も一定の感染者は発生するでしょう。重症化しやすい人の命を救うために必要なのは感染爆発・医療崩壊を起こさないこと。基本的な感染予防はひとりひとりが必要です」

 特殊なことをする必要はないという。外部からプライベート空間に入る際や食事の前などにこまめに手洗いをするだけで、感染のリスクは小さくできる。

「手で直接食べる飲食店は避けた方がいいですし、普段一緒に過ごしていない人と会食する際にも大皿から直箸で料理を取るようなことはやめた方が無難でしょう。ただし、気にしすぎる必要はありません。“ドアノブに触れずにドアを開ける道具”や“エレベーターのボタンを押すスティック”などは不要です」

 京都工芸繊維大学の山川勝史准教授が指摘するのは、換気の重要性だ。山川准教授は計算流体力学が専門。液体や気体の運動をコンピューターで解析する手法を使い、ほぼ閉め切った教室やオフィスのような空間で咳をした際のしぶきの動きをシミュレーションしたところ、小さな飛沫は20分経っても空中を漂っていることがわかった。

「咳をすると、小さな飛沫は20分経っても下に落ちず、半径1.5メートルくらいの範囲に漂っていることがわかりました」

 山川准教授を含む研究者らと理化学研究所は現在、スーパーコンピューター「富岳」を使い、電車内やオフィス、教室などの場面ごとに、空調、換気、パーティションなどの条件を付加して新型コロナの拡散の仕方を探っている。場面ごとの感染リスクを定量的に明らかにする狙いで、6月半ばまでに最初の成果を公表する予定だ。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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