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 大都市のロックダウンや外出自粛など、世界規模で大きな爪痕を残し続けているコロナウイルス。「コロナ禍」という不条理が社会にもたらす影響について作家の佐藤優氏と精神科医の香山リカ氏が語り合った。近く刊行される佐藤優・香山リカ『不条理を生きるチカラ コロナ禍が気づかせた幻想の社会』(ビジネス社)より内容の一部を抜粋する。

■未来モデル「疫病の克服」は幻想だった!?

香山 先般、「AIに奪われる仕事、奪われない仕事」というのが話題になり、私もさかんに授業でその話をしてきたのですが、その前提としていたAI(人工知能)がマネジメントしてつくられる社会の「未来モデル」もご破算です。

佐藤 そうした「未来モデル」もコロナ禍で裏切られましたね。シンボリックなのは、この三月に、新型コロナウイルスの感染拡大でアメリカの株価が乱高下を繰り返したとき、自動売買するAIが“前例がない”値動きのために機能不全を起こしたことです。私たちの世界がいかに脆弱なシステムで動いているのかを示したと言えます。(略)

 テレワークが一年続いたら、元の「九時~五時体制」には戻らないでしょう。テレワークの怖さは成果主義が進むことです。オフィスで机を並べていれば、「一生懸命やってるからいいか」と緩い評価にもなりますが、結果でのみ評価されるからです。会社は個人の就労時間を管理し切れず、無際限無定量に働いて成果を上げることが奨励され、極端な能力主義になっていくでしょう。

香山 CNNはいち早く「WFH(Work from Home)」という番組を立ち上げ、テレワークの仕方から問題点までを実際のレポートを通して伝えていますが、私の勤務する大学でもこれまで「デジタル?AI?邪道だ」とそっぽを向いていた教員がZOOMの使い方を覚えなければならなくなったり、夫がリビングを占拠して仕事をするので主婦の行き場がなくなってストレスからメンタルをやられたり、混乱が続いている印象です。その中で、いち早く適応し、成果を上げられる人は強いでしょうね。過剰な適応ぎみぐらいじゃないと、ついていけない。

佐藤 そう思います。また、次世代通信の5Gが一気に普及するでしょう。基地局を数多く設置しなければならず、日本では遅れると見ていました。しかし、このままテレワークが進むと需要が急増します。

香山 昨年、北京を訪れ、HUAWEI研究所のショールームで、5G技術のデモを見せてもらいました。遠隔医療、オンライン授業など、まさにこの事態を見越していたかのように5Gを前提に社会のインフラが組み直されているのを見て、日本の遅れを実感しました。でも、これで日本もそれに追随するしかなくなるのでしょうか。

佐藤 それ以外の選択肢はないと思います。はたして、このような危機的状況の中で、経済や社会の組み立てががらっと崩れてしまうのか。半年くらいで新型コロナ禍の嵐が去るならば、長く続いてきた制度が潰れることはないと思いますけれども、一年以上続けば、社会と経済の構造が大きく変化すると私は見ています。どちらのシナリオになるのか、現時点では何とも言えないというのが正直なところです。

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