中学生で不登校した子どもにとって、新しい高校生活の初日ほど緊張する日はありません。今度の学校では、人間関係がうまくいくのか。ひさしぶりの勉強についていけるのか。考えれば考えるほど不安になるでしょう。

 そんな「初日」を迎えるまでの緊張状態が、3カ月以上も少年の場合は続いたはずです。通ったのは1日だけでも、緊張していた疲れが一気に出て学校へ通えなくなったのかもしれません。

 そんな事情よりも、少年が気にしていたのは、おそらく「もう自分はふつうになれない」という絶望感だったのでしょう。

 少年と同じように中学2年生で不登校をした女性に取材をしたことがあります。彼女が一番苦労したのは、学力でも、社会性でも、人間関係でもなく、「ふつうになれないという思いだった」と語ってくれました。

 「ふつうになれない」という劣等感や負い目は、拳銃よりも殺傷力が高いと私は思っています。

■ふつうに戻す力が強く

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い休校していた学校が次々と再開しています。しかし再開した学校のようすを聞くと非常にピリピリしています。学力を取り戻そうと宿題がたくさん出され、授業もぎっしりと組まれています。感染予防の指示も、事細かなもので、「しゃべるな」「ちかづくな」という教員の大声が飛び交っているそうです。

 学校の再開以後、教員や親はこぞって「ふつうの状態に戻すこと」に躍起になっているように感じます。家のなかのゆるい生活を捨てさせ、はやく集団生活に戻そうと厳しすぎる指導が横行しているようにも感じます。これまでの「ふつう」に戻そうと、もっと宿題を出すよう学校に求めている親も多いそうです。

 しかし、そんな親や先生たちの思いに応えられずに立ち止まった子は「ふつうになれない」と絶望感を抱えるかもしれません。

 どうか、いまは非常事態だと割り切って、子どもに接する大人にはおおらかな対応をお願いしたいと思います。

 少年がなぜ亡くなったのか。いま、われわれがその背景を考えていくことは、大事な社会課題と向き合うことであり、少年の心と向き合うことでもあります。

 最後になりましたが、少年のご冥福をお祈りいたします。(文/石井志昂)

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