11月に大統領選挙を控えるトランプ大統領は、全米に広がった怒りのデモに対して、きわめて冷ややか、というよりも反発心さえ示している。たとえば、野党の民主党は、警官による過剰な暴力行使などを防止する警察改革法案を出した。それに対して、トランプ氏は、警察組織について「(警官の)99%は素晴らしい人々だし、記録的な(良い)仕事をしてきた」と強調し、「偉大な法執行機関を誇りに思う。予算削減も、解体も、解散もあり得ない」と言い切った。そして何と、国民を守るべき軍隊をデモ隊に差し向ける意向まで示した。
これに対しては、米国や日本のメディアのほとんどが強く非難した。トランプ氏は決定的に誤っていると決めつけた。前国防長官のマティス氏、そして現長官のエスパー氏まで反対し、トランプ氏は一時はエスパー氏を解任しようとしたようだ。
6月4日現在、米国での各社世論調査平均で、民主党のバイデン氏の支持率は49・3%、トランプ氏は42・1%だ。だが、トランプ氏は自分が誤りを演じたとは捉えておらず、選挙では勝てる、という思いが揺らいでいないのではないか。
4年前、それまで誰もが言ったことがない、「世界はどうなってもよい。米国さえよければいい」と、米国の常識を覆すことを言って、米国民の本音をつかむのに成功した。今回も、建前はともかく、米国の白人の多くは人種差別反対の大デモを本音では快く思っていないはず、とトランプ氏は捉えているのではないだろうか。
※週刊朝日 2020年6月26日号

