前川氏は、こうした利益誘導疑惑が続く原因の一端に、「安倍1強」以外にも、メディアの弱体化があるとみている。国会開会中は野党の追及を報じることでメディアもそれに乗って追及しているかのようにも見えるが、閉会すれば自らの調査と追及が不可欠だ。それが、不十分だとの認識だという。
一方で、慶應義塾大学法学部の大石裕教授(ジャーナリズム論)は違う見方をする。「慣れ」とは違う、メディアそのものが抱える問題だ。
「マスメディアがなぜ世論を動かすことができなくなっているかを考えるべきです」
新聞をはじめとする既存のメディアが、この7年以上にわたる安倍政権の疑惑を報じなかったわけではない、と大石教授は考える。
「もちろん調査報道やキャンペーン的な報道が不足していたなど、問題は個別にはあるかもしれません。しかし、過去の政権批判と同様に報道は行われてきました。それでも一時的に支持率が下がるだけで、その後は回復し、選挙になれば自民党が勝ち続けるという繰り返しでした」
大石教授は、メディアによる権力批判が国民に響かない理由として、既存のメディアへの不信があるとみる。
「大手メディアはそれぞれの立場で報じながら、一方で中立や公平も掲げる。その矛盾に読者は気づいている。社会の中の装置として素直に受け入れられるメディアでなくなっている」
それでも、大石教授には一つの糸口のように感じることがあった。東京高検の黒川弘務・前検事長の去就が注目された検察官の定年延長問題だ。
「ソーシャルメディアとマスメディアがある意味で一体化し、世論を盛り上げることで力を発揮しました」
最後は朝日新聞と産経新聞の記者らとの賭けマージャンが発覚して黒川氏は辞任したが、ツイッターと既存メディアが重なり合って世論に問いかけていき、政権の方針さえも変えるほどの影響力を見せつけられた。
自戒を込めて言うと、腐敗疑惑にメディアが慣れてはいけないのはもちろんだが、メディアはそれと同時に、読者にニュースが響かないことにも慣れてはいけないということなのだ。