現物の金は停滞しているのに金価格は上がるという異常事態。純金積立をはじめる人が前年同月比3倍に増加するなど、個人投資家も注目する。この上昇はどこまで続くのか。AERA 2020年6月22日号の記事を紹介する。
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コロナ禍で経済の先行きが見通せないなか、安全資産とされる金価格の上昇が止まらない。東京商品取引所の金先物価格は、5月18日に1グラム当たり6千円を超え、1982年の取引開始以来の最高値を更新した。
個人投資家も金に注目している。貴金属取引最大手の田中貴金属工業は、顧客の安全確保と感染拡大防止のため、4月半ばから店舗での資産用商品の取引を停止、5月中旬以降は顧客の要望もあり売却対応は再開するなど、一部を縮小して営業していた。
「外出自粛が求められる中、自宅でも金を売買できる純金積立の申し込みが増えました。4~5月は昨年の同時期と比べて約3倍のお申し込みをいただきました」(田中貴金属工業 貴金属リテール部長・加藤英一郎さん)
経済アナリストで金の第一人者の豊島逸夫さんは、金価格は異常な状態にあると指摘する。
「新型コロナの影響で貴金属の配送網は閉鎖され、現物の金の取引は滞っているにもかかわらず、金価格は上がり続けている。売買動向を見ると、金先物やETF(上場投信)などの短期売買にマネーが流入しています」
現物の金の年間生産量は約3400トン。これに対し、世界の金ETFの残高は2月末に3千トン相当を突破した。現物の金に匹敵する量が、金融商品として売買されるという異常事態が起きているのだ。
金価格の上昇の背景には、先行きの見通せない世界情勢とともに、各国政府の量的緩和政策があると豊島さんは指摘する。
「各国の政府が大量の紙幣を刷り、とんでもない額のお金をバラまいている。現状はコロナ不安により『この投資先がよさそうだ』という方向性がないこともあり、有事の避難先として定番の金が買われています。世界的な低金利、マイナス金利も金価格上昇を後押ししています」