宮城県多賀城市に住む写真家・堀内孝さんは、震災直後から県内の海岸部を撮り歩いた。そんなある日、塩釜市の鹽竈神社を訪問。60本ほどある鹽竈桜に悲しみを癒す不思議な力を感じたという。
* * *
近くの鹽竈神社を訪ねると、大輪の鹽竈桜が静かに、力強く咲いていた。訪れた人の中には被災した人も多いようで、満開の桜を見上げながら、「よく咲いてくれたな」「力をもらったよ」と口ぐちに桜に声をかけていた。宮古市郊外にある亀ケ森では、一本桜のゴツゴツとした太い幹に触れ、たくましい生命力に涙を流す人もいた。桜には悲しみを癒やす不思議な力があるようだった。
あれから1年が過ぎ、私が住む内陸部は一見すると震災前と同じような風景に戻りつつある。家を新築する音もあちこちから聞こえてくる。しかし町の空気は重い。今も多くの人が仮設住宅に暮らし、住人の多くも親類や友人の誰かしらが震災で被害を受けている。私の周りにも、震災がきっかけで仕事を失ったり、病気が悪化して亡くなったりした人がいる。母もストレスで帯状疱疹(ほうしん)になり、痛みが取れず今も入院したままだ。震災の影響は時間を経るごとに、じわじわと広がっているように見える。放射線への恐怖も常に頭から離れない。
もう少しでまた桜の季節がやってくる。母の病状が回復したら、今年は家族皆で桜を見に行ってみようと思う。
※週刊朝日 2012年3月23日号