これに対して足穂は次のように言い放つ。
「授賞式? 出んよ。いきゃあウレシガリみたいでしょ。授賞式なんて猿芝居。川端なんてスウェーデンの皇帝ですか、あんなのにペコペコしやがってミットモナイ。それに飲みゃケンカするからナ、井上(靖)なんかと。井上は文学ハキ違えてますよ。アツカマシイ。字引でもなんでもすぐ推選やから。アイツの詩なんてなんですか。言葉と言葉つなげたにすぎん。まァしかし、井上なんてのは大衆作家だね、そう思えば腹もたたんか」
この時、日本文学大賞を同時に受賞したのが、井上靖の『おろしや国酔夢譚』だった。もしも授賞式に出席したら、飲んでくだを巻いて井上靖にどんな言いがかりをつけるか、弟子の折目さんは心配だったに違いない。
最後に、足穂が見立てた作家への毒舌を記しておこう。
「小林秀雄なんてのはニセ者だ。いうなりゃテキ屋、夜店のアセチレンのニオイがしています。川端は千代紙細工。石川淳なんてコワもてしてるけどなにいってるかサッパリわからん。漱石、鴎外は書生文学、露伴は学者。荷風は三味線ひきだよ、スネもんでね、そこが少しは面白い。三島? ヤリ手だナ。アバれるところはなかなかいいよ。ケンランたる作品が多いけどドキッとするものがないや」
こんなふうに作家をバッタバッタと切り捨てた足穂、芥川龍之介は「大きな三日月に腰掛けているイナガキ君、本の御礼を云いたくてもゼンマイ仕掛の蛾でもなけりゃ君の長椅子には高くて行かれあしない」と書いている。
「わたしは世界の果てからネクタイを買いに来た」という足穂、世界の果ての感覚で、彼は日本の文学界に対して悪態をついたのかもしれないと思うのである。(大東文化大学教授・山口謠司)