連合とのトップ会談であいさつする経団連の十倉雅和会長(右)=1月23日、東京都千代田区
連合とのトップ会談であいさつする経団連の十倉雅和会長(右)=1月23日、東京都千代田区
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 ユニクロやDMG森精機などグローバルに事業を展開する多くの大企業には、賃上げの動きが目立つ。中小企業など日本企業全体の賃上げを実現するために必要なイノベーションとは。 AERA2023年2月13日号の記事を紹介する。

【図表】ユニクロだけじゃない、主な企業の賃上げの動きはこちら

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 日本経済研究センターが1月に公表した調査によると、33人のエコノミストの賃上げ率予想の平均値は2.85%。足元の消費者物価上昇率4.0%には届かない。

 ただ今後の消費者物価(生鮮食品を除く)の上昇率が1%台に低下するという見方が多く、賃上げ率がインフレ率を上回るかどうかは、今年の物価上昇率次第だ。

 労働問題に詳しい山田久・日本総研副理事長は1月23日の日本記者クラブでの会見で「上回るかどうかは微妙だ。この春闘で上回らなかったとしても基調が変わったと受け止められ、持続的に賃金が上がっていくかどうかが重要だ」と語った。

 今年の賃上げだけに一喜一憂せず、中長期的に日本の賃金が上がっていくかが大切だという指摘だろう。

 この30年の間、賃金を上げられなかった日本企業が今回の春闘を機に物価上昇率と同程度か、上回る賃上げを続けられる体質に変わっていけるのだろうか。はたまた大企業が中小企業との取引条件を見直し、中小企業も物価上昇に見合う賃上げができるような環境をつくることができるのか。

 そのために必要なのは「経営のイノベーション」である。この30年間、多くの日本企業は成長分野への投資に二の足を踏み、既存分野のコストダウンや人員削減といったリストラ頼みで競争力を維持する経営戦略を続けてきた。同時に賃金は低く据え置かれてきたのだ。新しい価値を生むイノベーションを持続的に実現できなかったことが日本企業の賃金が低迷した主因である。

 その間に欧米や中国、韓国は新市場に進出していった。日本が世界的な競争力を維持している自動車産業でさえ電気自動車という新市場ではいまや後塵を拝している。

 賃金を抑え、既存分野を死守するという経営はコロナ禍に入って労働分配率をさらに押し下げ、「歴史的低水準にある」(山田さん)。新たな投資をしないものだから手元資金は増えている。この春闘に限って言えば、十分な賃上げの余力はある。

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