ノンフィクション『女帝 小池百合子』が20万部超えの大ヒット。過去にも『おそめ』『原節子の真実』で高い評価を得ている著者の石井妙子さん。作家の林真理子さんがノンフィクションの現状や次回作などについて話を聞きました。
【「小池さん的な人」とは 『女帝』著者が語る「スキルより容姿」時代の弊害】より続く
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林:ノンフィクションって、取材にすごいお金と時間がかかってすごく大変だと思うんです。私が講談社エッセイ賞の選考委員で授賞式のとき、ノンフィクション賞の受賞者の人が、「『月刊現代』がなくなってからノンフィクションにお金を出してくれるところがなくなって、今ほんとにつらいです」みたいなことを切々とおっしゃっていました。作家だとそんなに売れていなくても、出版社はある程度手厚くしてくれるのに、ノンフィクションの人には「自分で取材してきて」みたいな感じで、そこが不思議だなと思う。
石井:ノンフィクションも、もうちょっと手厚い支援体制にしてくれたら、もっといい作品が出てくるだろうと思うんです。今は「ノンフィクションは売れない」というのが合言葉みたいになってしまって、逆に「売れないのはいい本だからだ」みたいになっちゃってるんですよね(笑)。でも今回、この本が売れてくれたことで、各社がノンフィクションにも力を入れようと思ってくれたらいいなと思うんです。この本がコケちゃったら、ノンフィクションをやっている方々に迷惑をかけるなと思って、それが心配だったんですけど。
林:今回、石井さんのほかの本もあらためて読み返したら、すごくおもしろかったです。最初のご著書の『おそめ』も、水商売も時代とともに新旧交代があるんだということがくっきり描かれててすごくおもしろかったし、『原節子の真実』も、あんなに自分を律する人だとは思わなかったので、目からウロコでした。
石井:ありがとうございます。それまで原節子の本はたくさん出てるんですけど、すべて男性の執筆者で、原節子ファンとか映画の研究者の方たちなんです。映画の役を演じている原節子のイメージに引きずられて、本人と混ぜこぜになっちゃうんですね。私はあくまで「原節子」という女優として一時期を生きた會田昌江(本名)の一生を書くつもりで取り組んだんです。それでああいう作品になったんですが、原節子ファンのおじさまというかおじいさまからは、「そんなこと知りたくなかった」という声をずいぶんいただいて(笑)。