そんなネガティブ要素の多い文脈の上に成り立ってきたにもかかわらず、粛々とマーケットやターゲットを広げ、世間の熱量のフェーズを進化させてきた彼女。フリーになってから雑誌でセミヌードを披露しましたが、案の定「勘違いするな」「お前がやるな」的な声が上がっていたのを覚えています。それはもはや条件反射でした。「田中みな実」というブレない素材に対し、安心して(ともすれば思考停止状態で)お決まりのフレーズを投げかける。これほどまでに磐石な関係性を世間と築いた女性は、松田聖子と田中みな実ぐらいではないでしょうか。しかし、次々と彼女のポテンシャルを見せられ続ける内に、ようやく世間も白旗を揚げ出しました。特に女性たちが。女性の変わり身というのは実に恐ろしいものです。
10年前。オカマの口を借りつつ、こぞって「田中みな実」を毛嫌いしていたあの頃も、彼女に熱視線を送る男性は大勢いました。しかし当時は、なかなかそれを大声で言い出せない空気感があったのもまた事実。「踏み絵」のような存在だった彼女ですが、今や男女を問わず、「田中みな実はイイ女だ!」と堂々と叫べる世の中になりました。そしてそんな世の中において、「田中みな実」は無敵です。
今思い出すと、本気で彼女にイラッとしたことが何度もありました。互いに「役割」をまっとうしなければならない立場にありながら、私は何度も負けていたのです。それも含めて私は彼女のことがずっと好きでしたが、それ以上に「女優・田中みな実」は手放しに楽しめるので大変喜ばしい。ちなみにニュースを読む時の声も良いです。私ただの田中みな実ファンじゃないの。
※週刊朝日 2020年7月24日号
■ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する