ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、田中みな実さんを取り上げる。
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観てもいないドラマのことを書くのも甚だ乱暴だとは思うのですが、「お浜さん」こと浜崎あゆみの私小説をドラマ化した『M 愛すべき人がいて』が、新宿2丁目界隈でも大層盛り上がっていた様子。話を聞く限り、オカマが飛び付く要素しかなく、漏れなく私も夢中になること間違いなし。後日ゆっくり観させて頂くつもりです。
中でも「あゆ」の敵役として出演していた田中みな実さんの怪演が世間的にも話題になっていました。私は田中みな実の女優としての才能を非常に高く買っています。昨年放送された『絶対正義』というドラマ(彼女の女優デビュー作)を観て、思わず数年ぶりにメールを送ってしまったぐらい。普通ここまでキャラやイメージが出来上がった人が、フィクションの世界や役柄にすんなり溶け込むのは容易ではないはずですが、彼女の存在感は私たちが抱いていた「田中みな実像」を大きくはみ出すことなく上書きする力を持っています。
局アナ時代も含め、彼女は「役割」に対してとにかく誠実な人です。誠実故に私たち世間は、迷うことなく「田中みな実」を額面通りに受け止め、そして好き勝手に御してきました。私のテレビタレントとしての日々は、「田中みな実」に対峙するところから始まったと言ってもいいかもしれません。当時はそれがオネエの「役割」でした。「田中みな実」にイラッとすることが私の仕事であり、それによって世間も彼女を「ぶりっ子」「あざとい」「腹黒い」といった文脈で納めてきたのです。なぜならそれは、彼女自身がその「役割」に誠実であり、そしてキャッチーな存在だったからに他なりません。