しかも、「その態様も自衛のための必要最小限にとどめ」るなどとすれば、日本人の犠牲は大変深刻にならざるを得ない。どう考えても、危険極まりないやり方である。

 ところが、自民党の歴代首相は、この言葉を平然と強調し続けてきた。それが憲法の精神だとしているのである。もちろん、野党各党も、そして多くの学者やマスメディアも、それに同調している。

 私にはさっぱり理解できないので、中曽根氏が首相になってから、直接このことを問うた。もちろん一対一である。すると、中曽根氏はいささかもためらわずに、

「専守防衛とは、戦わない、ということだ」

 と答えた。それでは、日本の安全保障はどうするのか。

「日本のために戦うのは米軍だ。あのような憲法を押し付けたのだから。だから日本は米国との同盟関係を強めればよい。それが安全保障ということだ」

 中曽根氏は、当たり前の常識を説明するように話した。だからこそ、中曽根氏はレーガン大統領と「ロン・ヤス」関係を結んだのであろう。

 この根幹は、第2次大戦後、世界の平和、秩序は米国が守る、つまりパックス・アメリカーナが米国の役割であり、それが米国のプライドと自信になっていたことだ。だから、中曽根氏の常識が通用したのである。

 だが、オバマ大統領が「米国は世界の警察ではない」と言い、トランプ大統領は「世界のことはどうでもよい」と、米国第一主義を公然と唱えている。パックス・アメリカーナを半ば捨てている。となると、日本としては、安全保障を本当に真剣に考えざるを得ないのである。

週刊朝日  2020年8月7日号

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

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