竹増貞信/2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
竹増貞信/2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
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「コンビニ百里の道をゆく」は、53歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。

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 文字を書く。パソコンやスマホが日常のものとなったいま、その機会はとても少なくなりましたよね。でも「書いた文字」の魅力というものも、やはりあると考えています。

 私は、実は字がとても下手なんです(笑)。手書きで「書く」ことにはどちらかというと苦手意識があるのですが、それでも、たとえば何かしらの気持ちをしっかりお伝えしたいときや、より丁寧に対応したいと思うときには、つたないながらも直筆でお手紙やお礼状を書くようにしています。

 もらう立場としても同じことが言えます。たとえば年賀状でも、写真だけとか、印刷の文面だけのものもありますが、「元気ですか?」と6文字あるだけでも、まったく違ったあたたかいものになると思います。

 直筆の文字で、大切にしている思い出があります。小説家の宮本輝さんの代表作『流転の海』が第9部『野の春』で完結した際、コメント文を書かせていただいたことがあるんです。

作家の宮本輝さん。宮本さんから丁寧なお礼状をいただき、いまでも額に入れて大切に保存しています
作家の宮本輝さん。宮本さんから丁寧なお礼状をいただき、いまでも額に入れて大切に保存しています

 その縁で出版記念パーティーにもお招きいただき、宮本さんから丁寧なお礼状もいただいたんです。

 小説家らしく、宮本さんのお名前が入った専用の、升目の原稿用紙。そこにお礼のお言葉が直筆で書かれていました。そして「今後、子どもや孫にはローソン以外のコンビニは使うべからず、と厳命します」といったユーモアのある趣旨のことも書いてくださっていました。

 プロの作家の方からの直筆のお手紙はやはりひと味もふた味も違い、大変感動し、いまでも額に入れて大切に保存しています。見るたびに宮本さんや『流転の海』を読んだときのことが思い出され、「また毎日頑張ろう」という気持ちになります。

 人が書いた文字には、そんな大きな力もあるのだと思います。

竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長