初めてカジノに行ったのは二回生のときだった。マカオのリスボアホテル。一晩中、『大小』のテーブルに座って四万円勝ったのはビギナーズラックとしかいいようがない。あのあと、韓国のウォーカーヒルやマカオは三十回ほど行ったが、勝って帰ったのは数回しかない。それも負けるときは○○万円、勝ったときは○万円だから、わたしのカジノにおける生涯収支は○○○万円超えのマイナスになっているが、そのことでよめはんになにかいわれたことはまったくない。雀荘で知り合ったよめというのは実に(都合)よくできている。
ビギナーズラックといえば、前回に書いた競輪もそうだが、よめはんとふたり、一度だけ行ったマレーシアのゲンティンハイランドとネパールのカトマンズのカジノでは○万円ほど勝った。
競馬もビギナーズラックがあり、三回生のときに初めて買った三レースの馬券(単勝、複勝、連複の一点買い)が三レースとも的中した。なんや、おい、ウマて簡単やな──、勘違いしたわたしはそれから三年間、毎週のようによめはんを連れて淀と仁川の競馬場に通い、底の抜けた笊(ざる)のごとく負けつづけた。中でもひどかったのが就職した年で、年末のボーナスを正月の『金杯』に持って行き、きれいさっぱり溶かしたのだった。そのとき、わたしはよめはんに「もうウマはやめる」と宣言し、以来、馬券を買ったことはない。
そう、コロナ禍のいま、わたしはよめはんとのふたり麻雀しかしていない。それがまた愉(たの)しい。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2020年9月11日号