夢の球宴で後輩の“仇討ち弾”を放ったのが、中日時代の落合博満だ。
90年のオールスター第2戦、ともにファン投票1位で選出された中日・与田剛vs近鉄・野茂英雄の球宴史上初の両リーグルーキー同士の先発対決が実現した。
与田は最速153キロをマークしたが、0対0の2回、清原和博(西武)に3ボールから150キロ直球を左中間場外まで運ばれ、痛恨の失点。2回を無失点の野茂に後れを取ってしまう。
3回の全セの攻撃が始まり、与田がベンチで悔しさを噛みしめていると、落合は「お前が(打たれて)賞を獲れないのに、野茂に獲らせるわけにもいかないな」と言って、2死二塁のチャンスで打席に入ると、3-1からの5球目、145キロの内角直球を左翼席中段に逆転2ラン。「三振でビシッと決めたかったんですが、やられてしまいました。完璧(な当たり)ですからしょうがない」と野茂を脱帽させた。ちょうどこのとき、与田は降板後のインタビューを受けている最中だったが、思わず「落合さんと同じチームで良かった」の言葉が口をついて出た。
自らのバットで与田の敗戦投手をリセットし、野茂の賞獲りも阻止した落合は、この日2本塁打を放ち、優秀選手に選ばれている。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球 を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)