![元朝日新聞記者 稲垣えみ子](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/4/8/522mw/img_482455e5f97b8a7438569fd3e2de5e2731504.jpg)
![行く夏を惜しんで、近所の町中華でオッちゃんと馬鹿話しながら麻婆茄子。近所最高(写真:本人提供)](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/840mw/img_1fa429b5de8db5d4dc0f336a5cecb240116661.jpg)
元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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先週ご報告した「ご近所ホテル宿泊」で、良いことずくめの中、唯一当てが外れたというか、思いもよらぬことがあったので書いておきたく。
実は宿泊の目的の一つが「避暑」。何せ家にエアコンなしですからね。10年近い実績があるので皆様が思うほどは辛くないんだが、にしても夜も30度をさほど下回らぬ日が続くとさすがに寝苦しい。今年は涼しい山へ旅もできぬ。ならば1日くらい、ホテルでぐっすり寝るのも良いと思ったのだ。
で、夕方チェックインしたらマジで天国かと思ったよ! 奇跡のように涼しい! なんちゅう贅沢とホクホクしていたんだが、肝心のお休みタイムが近づくにつれ、どうも落ち着かなくなってきた。
だってね、昨日までのこの時間はひたすら奮闘努力しまくっていたのだ。まず熱い銭湯で盛大に汗をかき、帰宅したらハッカ油入りスプレーをシュッシュと体に吹き付け、ベランダに打ち水をして窓際にゴロンと横になり、わずかな風を感知しようと意識を集中して深呼吸……ここまでするとですね、ついに、じっとりした中に一瞬の涼が訪れる。と思ったらストンと寝ているのである。
で、ホテル。確かに素晴らしく涼しいんだが、こう完璧に絶えず涼しいと、アクセントというものがない。することもない。当然汗もかかない。かかない汗は引かないのだ。となると、いつ寝ていいんだかわからない。そのうち、なんだか寒いような気がしてくる。なのでエアコンを切る。でも切ると暑い気がしてくる。で、つける。寒い。切る……ということを繰り返しているうちに眠れなくなった。正直、過酷な我が家を恋しく思ったんである。
そして、めでたく灼熱の家に戻って数日後、ついに夏将軍が撤退を始めた。昼は暑くとも夕方の風が一変。夢のように心地よい風をかみしめながら、私は10時間ほどコンコンと寝た。誠に幸せな夜であった。先週、感動は近所にもあると書いたが、近所どころか我が家に一番の感動があったのだった。
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2020年9月7日号
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