感染拡大以前は1枚100円程度で仕入れられたが、現在は500円で探しても入手は至難の業だという。3M社は自社のホームページで米国内の小売価格を公開しており、N95タイプの主力モデル「1860」は1.27ドル(約134円)。現実とは大きな開きがある。

 3MはN95タイプの生産枚数を1月以降倍増させて年間11億枚にしたとしており、さらに1年以内に年間20億枚まで増加させると発表している。しかし、日本医師会は現在、国内で必要とされるN95を1カ月あたり3千万枚と推計している。日本だけで年間3億6千万枚必要とすれば、供給不足は明らかだ。国内のマスクメーカー「興研」が設備を拡充しN95を月産200万枚まで増産したとされるが、抜本的解決には程遠い。ある大病院の勤務医は、こう正直な感想を吐露した。

「感染症対策としては3MのN95しか使ったことがなかったけど、今やダイヤモンドより貴重なぐらい全く手に入らない。もはや『歴史上の物体』ですよ。最近ではたまに国産のマスクが回ってきますけど、あとは大半が中国製のKN95です。コーヒーフィルターみたいな装着感でカパカパ息も漏れるし効果には疑問を感じざるを得ません」

■高騰受けて詐欺も発生

 前出の代理人は言う。

「日本国内にはもう在庫はありませんが、世界中を探せば『1860』などの3Mの真正品は確実にあって、私はバイヤーの依頼を受けて売り主につなぎます。通常こうした取引は、弁護士口座に半金を入れ、海外から現物を引っ張ってくるエスクロー(第三者預託)という手法で始まります。しかし今は詐欺が横行しているため、買い主が保税倉庫で現物を確認してからの相対取引にこだわるようになり、土壇場で不調に終わることが多くなりました」

 買い手がいることを示す購入意向書(LOI)、購入資金があることを示す残高証明書(POF)などの書類を巡るトラブルも多く、これが詐欺のような事例の原因になっているという。
「単価500円で1千万枚買おうとすれば、60億円ぐらいの残高証明書が必要になります。このLOIやPOFが出回って独り歩きし『確実に金が入るから、これでお金を貸してくれませんか』みたいな詐欺まがいの輩が実際に出ている」

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