チリ北部サンホセ鉱山の落盤事故で閉じ込められた作業員33人全員が、命のカプセル「フェニックス」に乗って地上へ救出された。その22時間半にわたる美しい救出劇は、現場近くに設けられた特大ビジョンにも映し出された。地元はお祭りムードだが、あまり美しくない事情を抱え、固唾を呑んで見守る人たちもいた。
日本の民放局スタッフが、現場の様子をこう伝える。
「高飛車な北米メディアに比べ、先達の日系人たちのおかげなのか、日本のメディアにチリ人はとても友好的。当初は作業員の家族も快く取材を受けてくれて、救出される作業員のインタビューを約束してくれる人もいた。街ものんびりとしていた。だが、救出1週間くらい前から報道陣の数が激増して、街の様子も変わってきたのです」
チリ北部の小さな町に、作業員救出を目前に詰めかけた報道陣は39カ国約1500人。その中で、作業員の独占インタビューをスクープすべく家族に接触し、高額な報酬をちらつかせる輩が現れたという。
「善意で取材を受けてくれる人も少なくないが、家族の取材ですら当初から3万円、ピーク時には十数万円を要求する人もいた。チリのアンデス山脈に墜落した飛行機事故で人肉を食べて生き残った生存者や家族の代理人として活躍した「やり手」弁護士が『鉱山入りした』という情報も流れた。マスコミより先に作業員に接触されたら、途端に『出演料』をつり上げて要求されかねない。その情報で世界中の報道陣が戦々恐々としてきた」(同前)
「奇跡の生還」をドキュメンタリー映画にしようと、チリ人監督が現場近くのテント村で撮影を開始。ほかにも映画化の話が複数出た。作業員の手記を出す動きもあるが、カネづるになるのはマスコミだけではない。
作業員の家族が鉱山会社と国の監督機関を刑事告訴したほか、作業員の多くが地中にいながら地上の弁護士を使って損害賠償請求の訴えを起こした。国から報奨金を出す計画や、地元実業家からの作業員一人あたり1万ドル(約80万円)の寄付についても報じられている。
別の民放局ディレクターがこう解説する。
「作業員らの月収は10万円前後だが、今回の事故による様々な補償や謝礼を加えると3千万円になるという計算もある。20年以上は楽に暮らせそうですよ」
現場には作業員と親しくなかった遠い親戚や友人も擦り寄ってきている始末だ。
鉱山の現場からは、こんな話も聞こえてくる。
「支持率を伸ばしたピニェラ大統領と、現場を指揮したゴルボルネ鉱業相とは同じ与党内ながら仲が悪く、鉱業相は『次の大統領の座を狙っている』とも言われている。救出日をめぐっても大統領の外遊にぶつけるかどうかで駆け引きがあったらしく、今後もふたりの「成果争い」によって作業員への補償が手厚くなるのでは、という見方もあります」(同前)
テレビには決して映らない現実だ。
本誌・藤田知也
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