その間、世界を見渡してみると、iPS細胞って再生医療に使うには効率が悪いことがわかってきたので、最近はES細胞を使うのが主流になってます。ところが日本はiPSに掛け金をオールインしちゃったので、今さら方針転換できないんです。内田先生のお話を聞いて、理系分野もこれからどんどん衰退していって、仏文学の後追いをするのではないかと心配になってきました。

内田:元凶は評価主義なんです。客観的な査定を行い、格付けをして、それにしたがって限りある資源を傾斜配分するという仕組みそのものがすべての学問領域のレベルを引き下げている。

岩田:大学の医学部では、研修医や学生の成績もできる限り計量的に評価するようにしろ、と圧力がかかってます。しかし、医者としてあるべき振る舞いなんて数値化できないですよね。「客観的な評価ができないことは切り捨てていい」と彼らは言いますが、医学生なんてみんな頭がいいし、点取り虫なので、どうすれば高い評価が得られるか簡単に予測できるんです。でも、それで優秀な医者が育つかというと、非常に疑問ですよね。

内田:そのとおりです。

岩田:今、大学では「360度評価」といって、学生を含めたいろんな人に評価をさせる仕組みを導入していますが、これも「とにかく評価をしさえすれば、見えないことが見えてくる」という考えの表れです。しかしスポーツ選手とか、文学者とか、ミュージシャンとか、優れた人ほど評論家の言うことなんて一切無視してますよね。昔、僕は恩師の微生物学者に、「他人の基準で自分の生き方を決めるな。自分の生き方の基準は自分で決めろ」と言われて、実際にそうやって生きています。

■内田樹(うちだ・たつる)
1950年東京都生まれ。神戸女学院大学名誉教授。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。著書に『私家版・ユダヤ文化論』、『日本辺境論』、『日本習合論』、街場シリーズなど多数。

■岩田健太郎(いわた・けんたろう)
1971年島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科教授。島根医科大学(現・島根大学)卒業。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年より神戸大学。著書に『新型コロナウイルスの真実』『感染症は実在しない』など多数。

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