僕自身も、人生で初めて精子検査を受けた時に、運動率が悪く、形が「やや奇形」と出ました(今、このような表現を使うところはあまりないみたいですが)。そこで思うのです。「自分だったか……」と。

 流産してしまったのも、自分のせいだったのかもしれないと……。

 男性の精子と女性の卵子がくっついて受精卵になり、命になるわけですから、それが出来なかった時に、男性にも同じ分だけ可能性があるわけです。でも、なかなか男性不妊のことって話題に出ない。

 僕は自分が経験したので、いろいろと勉強しました。僕の知り合いで20代の男の人がいて、結婚してなかなか子供が出来ないから検査したら、精子に問題があることがわかった。やはりみんな同じことを言います。「まさか自分が……」

 僕の周りで、なかなか子供が出来ないという話をされた時には、僕は必ず「精子検査に行った方がいいよ」と言いました。

 僕はここ数年、もっともっと精子の検査が広まることを願っていました。早く理由を知れれば、その対策も出来るし。……と。

 でも、ティラノ部長を読んだ感想コメントの中で、こんなものがありました。「私はどちらかのせいとかになるのが嫌で調べてませんが、夫婦2人で仲良くやってます」と言う人。そして、「不妊については『どちらに原因があるか』をはっきりさせる事自体に抵抗感があります。ウチは夫婦二人でいいです。」と書いていた人。「ウチは夫婦二人でいいです」と言う言葉に胸をギュっと掴まれました。

 夫婦の形はそれぞれ。色々な形がある。今まで自分の考え方を正解だと思って押し付けたのかもしれないと。

 人の数だけ悩みがあり、言えない人だって言いたくない人だっている。自分の考え方は選択肢の一つでしかないんだってことを大切にしようと。あらためて、そんなことを思いました。

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。10/31スタートのテレビ朝日系ドラマ「先生を消す方程式。」の脚本を担当。バブル期入社の50代の部長の悲哀を描く16コマ漫画「ティラノ部長」の原作を担当し、毎週金曜に自身のインスタグラムで公開中

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鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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